第20話、開幕に踏み出す
帰宅の電車に乗ってる染谷まこはひとりで考え事に夢中になっていた。乗客もほぼ見当たらない寂しい車内でガタンガタンと鉄路を走る車輪の音がメトロノームのように聞こえてくる度、考えも深く成る。
部員の優希や数絵、美篶とは別れて今はひとり、学校は論外だし家よりも集中に最適な場所だった。今までの事と今からの事で頭がいっぱいになる。昨年、1万人の頂きにあと一歩ってところまで駆け上った道が嘘のように感じる。
考えてみると、その公式的な第一歩を踏み出す為に久とこの電車に乗ってた。
(今年はひとりだったな……)
昨年には学生議会を抜け出した久と二人で県予選の受付に行って、一昨年は個人戦にもエントリーしなかったから行ってすらない。
今回は部員の誰にも伝えないまま一人で行ったんだったけど、長野県のディフェンディングチャンピオンの清澄高校として結構な注目を集めならが登録した。
(昨年は久が急に叫びだして変な目で見られたから同じか)
その時は恥ずかしかったけど、今ではどうでも良い思い出に残った青春の1ページを浮かべながらまこは軽く笑ってしまう。やっぱりまこにとって久と一緒だった頃が懐かしいのは仕方ない。
でも不安と考え事は止まりようがない。
「本当に出来るんじゃろうか……」
思わず独り言が声に出てしまった。だけどその一人だけの時間も長くは持たなかった。携帯からベールが鳴ると、頭の中の思い出と未来への予測から現実の電車の席に戻られた。
「もしもし」
『今ひとり?電話大丈夫かしら?』
合宿の帰り道って言うのに、早くも電話を掛けてきた久の軽い声に、まこも軽く答えを返した。
「まだ家に帰ってもない時間なのに気が早いのう、そんなにワシと話したかったんか?」
『そろそろまこが心配してるんじゃないかなって予知夢見たのよ、怜ちゃんがね』
「嘘付け、結構な予知夢じゃな」
『まぁ、今は予想した可能性の中でも好都合だからあんまり心配しなくても良いって事よ』
まこは当ってるからなかなか凄い予知夢だと思いながらも、それが大当たりだという事は隠す。
普通に何も考えてなかったフリをして思いついたのように話を合わせる。
「1回戦免除も有るが、龍門渕だけでなく風越ともあたらない組み合わせになったからなー」
『本当そうだわ、登録学校数によってシード何か無い場合も有るから心配したけど、これで決勝まで龍門渕とは当たらないのは大メリットだね』
それは久の言う通り確かな利益だった。龍門渕も一昨年の優勝校としてシードを貰う、だから決勝までは当たらない。それに伝統の名門風越とも離れた。これ以上と言う状況は無いだろう。
けれど組み合わせなどは末の末みたいな物だ、本当に大事なのはこれからどう戦って行くかだ。
今回も昨年同様、その戦略を建てる役割は頼れる先輩でながら監督に一任している。
『提出したオーダー、皆にはまだ伝えてないよね?どう?私はこれで長野を突破出来る正解に近づけた気がするけど?』
「それなー、ワシはあんたの事を信じとる」
まこは一瞬の間をおいてから言葉を繋いだ。
「あんたも無理極まりないのを知っとるじゃろうからなーだから出来るかじゃなく、やって上げるつもりじゃ」
『その意気込みだ』
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