ハーメルン
【完結】敗北者ユウリのワイルドエリア生活(6泊7日)
5日目(お客様:ソニアとルリナと )

 スパイクタウンの入り口のそば。
 
 マリィは粗末なガラクタのようなベンチに座っていた。
 天気は自分の心と同じようにどんよりしている。明日は雨が降りそうだ。

 ユウリと喧嘩別れして帰ってきたものの、バトルの訓練にも身が入らず、ここ2日間何もしていない。
 
 兄のネズに怒りながらユウリとのことを愚痴った後に特訓しようとして、呆れたように言われたのを思い出す。

『やめておきな。今の調子のおまえでは特訓しても身に入りませんよ』

 そんなわけで、マリィはただただやることもなく、スパイクタウンの中だったり、外だったりをブラブラしている。昨日はエンジンシティに行って気になってたオシャレなカフェで過ごしたりもしたけれど、それでも全く気分が晴れなかった。気紛れにSNSを見ても、トレンドにはいつもユウリの名前があってモヤモヤする。

 はあ、いつもならこういう気分の時はユウリと一緒にどこかに出かけてたのに。気晴らしに行っても何も楽しくない……。

 マリィがただただぼーっとしながらベンチで過ごしていると、やがて兄のネズがスカタンクと共に現れた。様子を見に来たんだろうな。アニキなんだかんだで過保護だし。マリィは気怠げに兄の顔を見る。

「妹よ、そろそろ頭は冷えましたか」

 いつものように不健康そうな顔でそう言うネズの傍らでスカタンクがぶにゃあと鳴いた。スカタンクも兄に似てマリィのことが心配らしい。

「冷えるも何も、アニキが特訓させてくれんから何もやることがなか」
「おまえも頑固ですね……誰に似たんだか」

 何言ってんだか。アニキだよ。多分ね。

 マリィは心の中でため息をついた。ネズは何度ローズ委員長に圧力をかけられても兼業ジムリーダーを止めなかったし、ダイマックスを使えないスパイクタウンから移動しようとしなかったし、自分自身もダイマックスを使うことはない。こだわりが強くて頑固なのはアニキだって同じじゃないか。
 
「マリィ、おまえにとってユウリはどんな存在なんですか。ライバルですか。倒したい相手ですか。友達ですか」
「ええ?」

 突然ネズはそんなことを言う。意図がよくわからず、マリィは少しだけ考えた。すると疑問が浮かんでくる。ユウリはあたしにとってどんな存在なんだろう。いつも一緒に遊んだり、ご飯行ったりして何でも話せる友達? 絶対に負けたくないライバル? トレーナーとしての目標?

「ユウリは、あたしの友達で、ライバルで……それで憧れでもあるけん」

 マリィは言葉を選びながらそう言った。最近はユウリとご飯食べたり買い物したりすることも多くなって、お互いの性格もジムチャレンジで出会った時よりはずっと分かるようになった。

 マリィは思った。ああ、たぶんあたしはユウリと友達でい続けることを望んでいる。だからこんなにモヤモヤするのだ。

「それなら、待ってやったらどうですか?」
「えっ」

 ネズは軽い調子で当たり前のようにそう言った。予想外の言葉にマリィは目を丸くする。

「おまえたちはまだ子供ですよ。これからどんな道を選ぶのか、そんなものは今すぐ決めることじゃない。ジムリーダーを継がせたのはおまえがそれに乗り気だったからです。別に他にやりたいことが見つかればそっちをやってもいいと思っています」

[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8

[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク
携帯アクセス解析