ハーメルン
あなたが落としたのはきれいな無惨ですか?
名探偵

「では梅さん、泣いてください」
細胞分裂阻害薬の入った湯飲みを手に、グイと梅に渡そうとする珠世。
だが今、梅たちはそれどころの騒ぎではない。

「そんなぁ! 私の姿、もう元に戻らないんですか! それは困ります!」
「落ち着いてください無惨様!」
「でも私、今の無惨様の姿のほうがカワイイから好きだけどなぁ」
「馬鹿なことを言うな! 今の無惨様は美しいのだ!」
ワーワーギャーギャーと近所迷惑ギリギリの鬼騒ぎに、「黙りなさい」という珠世の静かな雷が落ちた。

「あのですね、起きてしまったことは仕方がないことでしょう? 後で阻害薬を解除する薬を研究して作ります。無惨がこのままの状態であることは私にとっても不都合なんですからね」
珠世の宣言に無惨は「本当ですか! ありがとうございます」と感謝を示した。
「珍しい。珠世が無惨様にこんなに優しいなんて」
梅の余計な茶々に、珠世はため息をついて答えた。

「細胞の分裂を阻害しているのですよ? 女の体がどうこうよりも重大なのは、鬼の再生能力まで阻害されている点です。つまり怪我が治りにくく、毒や薬を飲んだら動けなくなってしまう。鬼を人に戻す研究が停滞してしまうのですよ」
「それに私、縁壱さんとうたさんと約束したのです。同じ冥途に行きましょうと。ですがこのままでは向こうに行った時に、私だと気づいてもらえないでしょう?」
珠世と無惨の説明に狛治はハッとなった。体の変貌なんてものは小事なのだと。
「そっか。怪我が治らないのでは、無惨様を旅にお連れすることもままならぬわけですね」
「少し違いますよ恋雪さん。治癒が阻害、つまり治りにくくなるだけです。普通の人と同じようには治ります」
「でも無惨様って無茶する癖あるからなぁ」
「あと、無駄に美人なのが癪に障る」
珠世のボソッとした一言に、無惨はオホホと笑ってみせた。



こうしてどうにか騒ぎは収拾を見せた。
ようやく本来の目的。細胞分裂阻害により、妓夫太郎の体が梅から分離されるかの実験だ。
「ということで、泣いてください梅さん」
泣けと言われて泣けるなら苦労は無い。
「ふふ~ん。こんなこともあろうかと、私は最近ご本にハマっているのです」
そう言って梅が取り出したのは、巷で流行している『絶対に泣ける物語』の本であった。

「このお話、とっても悲しくてね。思い出し泣きできるくらいなんだ」
「そうなのですか。よろしければ読み聞かせ願えますか?」
無惨の依頼に梅は「うん!」と元気よく快諾した。
「じゃあ読むね。むかしむかしあるところに……グスン」
早い。
朗読冒頭2秒で梅の体から妓夫太郎が生えてきた。

「ふぅう~ん。よく寝たぜ……あ゛? あんだテメェは?」
起床2秒で見知らぬ女性にガンを飛ばす妓夫太郎に、狛治は食って掛かった。
「無惨様だ。分からないのか?」
「あん? テメェに言われる前に俺は気付いたz……はぁ!? 無惨様?」
狛治の指摘から2秒で、開いた口が塞がらなくなってしまった妓夫太郎であった。



その後、無事に細胞分裂阻害は成功。妓夫太郎の体は催眠プロセスの輪から脱出し、梅とは分離して単独で行動できるようになった。
無惨たちは阻害の拮抗作用のある薬の研究のため、旅を一時中断し家にこもりがちに。

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