ハーメルン
SIREN2(サイレン2)/小説
第四話 『不時着』 永井頼人 夜見島/碑足岬 -2:24:27

 夜見島の最北東・碑足(ひだる)岬の森の中で、永井(ながい)頼人(よりと)は倒れたまま動かない沖田(おきた)(ひろし)のそばで涙を流していた。沖田に意識は無く、口や鼻、耳から大量の出血をしている。わずかに息はあるものの、かなり危険な状態であった。

 永井から少し離れた場所には、迷彩柄の大型ヘリが横倒しになっていた。自衛隊の物資輸送ヘリである。物資輸送訓練で四開地方上空を飛行していたのだが、原因不明のトラブルが発生し、先ほどこの地点に不時着したのだ。ヘリは操縦席付近こそ原形をとどめているものの、中央部から後ろは完全に大破している。爆発炎上しなかったのは幸運だったが、それも、いつ起こるか判らない。ヘリには二十一名の隊員が乗っていたが、現時点で確認できている生存者は永井と沖田、そして、三沢(みさわ)という隊員だけだった。他の隊員の生死は不明。現在三沢がヘリ内部や周辺を捜索しているところだ。永井も捜索すべきなのだが、どうしても沖田のそばを離れることができなかった。

「……沖田さん……しっかりしてください……死なないでください……沖田さん……!!」

 永井がどんなに呼びかけても、沖田にはわずかな反応すらなかった。






 永井頼人は陸上自衛隊に所属する自衛官だ。階級は士長で、入隊したのは三年前。永井が十八歳のときである。

 もともと永井は、特に熱意を持って自衛隊に入ったわけではない。高校在学中、特に将来の夢や目標が無かった永井は、卒業後の進路を決めかねていた。やりたい仕事があるわけでもなく、学びたいことも無い。このままでは就職も進学もせず、ただぶらぶらしているだけになりそうだったところを、叔父から自衛隊へ入ることを勧められたのである。もちろん、その時の永井に国防や人命救助などの使命感は無い。叔父から、「自衛隊に入ればタダで車の免許が取れる」と言われ、それならためしにやってみるか、くらいの軽い気持ちであった。両親からもあまり期待されておらず、すぐに根を上げて帰って来るのではと心配されていたのだが。

 自衛隊に入った永井が、沖田宏と出会えたことは、幸運だったと言える。

 沖田と出会ったことで、永井は変わった。優秀で面倒見が良い自衛官だった沖田は、特に永井のことをかわいがった。もともと勉強よりは運動の方が得意だった永井は、候補生時の訓練で優秀な成績を残していたのだが、二士となって基地へ配属され、沖田の指導を受けるようになってからは技術や精神面でも大きく成長していった。今では自衛官の使命を全うしようという心構えもできている。士長となった現在では同期の中でも頭角を現すほどで、将来が期待される若手自衛官となっていた。

 だが、順調だった彼の自衛隊での生活は、今日を境に大きく狂ってしまう。

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