第5話 幕間
ーーーー氷川市 狗巻家ーーーー
廃アパートでの一件の後、僕は彼女の家に来ていた。
彼女はアパート暮らしのようで、二十歳という年齢の割には渋い和室なのが印象的だった。
夜も遅い時間のため、今日はここに泊まりみたい。
もちろん、針倉術師はいない。
駅前のビジネスホテルを予約しているらしい。
まぁ、そもそも女子2人だけの家に上がり込む訳はないだろうけれど。
「お疲れさまでした、長月ちゃん」
コトッと湯呑みを2つ置く彼女。
中には温かいお茶。
5月とはいえ、夜は少しだけ冷えるからありがたい。
「ありがとう」
「いいえ。私も失礼しますね」
髪も乾かし終わったようで可愛らしいパジャマに着替えている彼女は、僕の対面に座り、ふうっと息を吐く。
「大丈夫、ですか?」
「え……あぁ」
なんのことかはすぐに察しがついた。
「全員手遅れでした。恐らくあの呪霊は二級相当。行方不明になってから数日経った今となっては……」
気を強くもってください。
呪術師の世界にはこんなことは日常茶飯事ですから。
そう言う彼女の方が辛そうだ。
普段の柔和な微笑みは今の彼女にはなく、暗い表情をしている。
「重いんだね、呪術師って」
「……はい。やり切れないことは多い、と思います」
大きな事件であればあるほど救える命は数えるほどで、全員救えないこともある。
今回の事件のように手遅れなことも少なくない。
「それでも続けているのは……いえ、なんでもありません」
そう言って、彼女は笑顔を作る。
無理やり作ったぎこちないものだけど、それでも初めて呪霊との戦いを見た僕を不安にさせまいと気遣ってくれたんだろう。
しばしの沈黙。
二人で静かにお茶をすすって。
「……そろそろ寝ましょうか」
「うん」
僕たちは眠りについた。
ーーーー翌日 氷川駅前ーーーー
「やぁやぁ、よく眠れたかい、ご両人」
午前8時。
平日なこともあって、通勤通学で人が行き交う駅前で僕たちは針倉術師と落ち合った。
本来であれば、僕も高校に通学するはずの時間なんだけど。
僕の監視役である針倉術師曰く、転校予定だった呪術師の学校は一番近くて東京にある。
だが、監視役の二人の任務が地方での調査ということで、それがすべて終わってから二人とともに東京に行くらしい。
つまり、彼女たちの任務が終わるまで僕は学生でもフリーターでもないということになる。
……学校に行かなくていいのは、嬉しいような、悲しいような。
「さてさて、それじゃあ今日から任務を開始しようか」
と伸びをしながらそう言う針倉術師。
どうにも緊張感がない。
昨日の廃アパートでの戦いを思い出すと余計にそう思う。
彼は準一級術師らしいから、強者の余裕というやつかもしれないけれど。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク