第6話 毒蟲徘徊ー壱ー
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ウゾ……ウゾ……
蠢く音。
地の底から這うような音。
その音は夜の町を蝕んでいく。
緩やかに。
ーーーー西合町ーーーー
氷川駅から電車でおよそ1時間半ほどでその町についた。
僕が住んでいた田舎とは氷川市を挟んで反対方向にあるこの町は、特に観光資源もなく閑散とした町だ。
この静かさがいいという理由で、移住する人もいるらしいが。
「緑が綺麗ですね」
伸びをして、そう言う彼女。
普段は自分の車を使う彼女にとって、電車での旅はあまり得意ではないようで、電車の中では居心地が悪そうにしていた。
「僕のところより田舎だ」
「それがいいんじゃないですか」
彼女はにこりと微笑む。
……まぁ、いいけど。
「ところで針倉術師は?」
「私も詳しくは知らないんですけど、予定があるらしく遅れて合流するという話でした」
「そっか」
準一級だという彼がいないのは……。
いや、いない方が気が楽か。
それに三級とはいえ、彼女の実力は見ているから安心できる。
それに、
「『呪詛師』退治ね」
相手は呪霊ではなく呪詛師、つまりは人間だ。
彼女曰く、日本人以外の術師もいるらしく、その人たちにも術式が通用するように日本語以外も書けるようにしてあるとのこと。
大抵の人間ならば、『呪言』遣いの彼女には勝てないだろう。
「電車の中でも話しましたが、これから宿に向かいます」
「事件は夜に起こるだっけ」
「はい、それまでは宿で休みましょう」
どうやら電車の座席と彼女とは会わないようだ。
東京には住めないね。
そんなことを口にすると彼女は、えぇ、無理ですね、と苦笑を返した。
ーーーー夜ーーーー
「それで、これからどこに向かう?」
時間は夜の9時。
5月で日も長くなったとはいえ、街灯も少なく辺りが見にくい中、隣にいる彼女に声をかける。
「……そうですね。どこから行ったものでしょうか」
彼女も首をひねっている。
顎に当てた右手にはもう黒手袋はない。
もちろん、ノープランというわけではない。
事件が起こるのは夜。
それは分かっているのだが、
「場所が特定できないようなんですよね」
「人が消えるのはこの町全域らしいので」
という話。
今回の事件はこうだ。
きっかけは、この町の中学生たちが学校行事で清掃活動をしている最中に、人の衣類を発見した。
草むらの中にそれはあり、ただ誰かが古着を捨てたものかと思われ、警察も動かなかった。
しかし、それが続いた。
時には、同じく草むらの中に。
時には、無人の車の中に。
時には、コンビニのバックヤードに。
とにかく人の衣類のみが見つかり、それが続くにつれ、自分の家族が身につけていたものだという証言も出てきた。
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