第3話 主演男優賞
どうしようかな、この人……。
私は隣でベラベラと喋り続けている珍妙な人物を横目でチラリと伺う。
時折謎のポーズも決めており、異様に目立っていた。
並んで歩いている私は物凄く恥ずかしい。妙に似合っているのも若干イラッとする。
校門の前で行われた羞恥プレイ。
我に返った私は「ち、遅刻するので失礼しますね~」なんて愛想笑いを浮かべながら彼女の横を通り過ぎた。
時間はまさに登校時間。周囲には何事かと多くの生徒たちが遠巻きに眺めていた。
見た目で彼女が聖女候補の一人だとは察しがついたが、ここまで奇抜な人だなんて聞いていませんよ姉上。
別に聖女候補と仲良くなる必要はない。
私の任務は護衛だが、あくまで緊急対応の役目だ。
警備の網をすり抜けて、聖女候補へ直接危害が及びそうな場合に動く最終防衛ラインだ。
年がら年中側に引っ付いて友誼を結ぶのも逆に変であろう。
特に聖女候補なんて、その肩書だけでも目立つのだ。
どの候補の側にも私がいたら、私も必然的に目立ってしまう。
それは避けたい。
避けたかったんだけどなぁ……。
まさか、ミスズ様がここまで頓珍漢な行動に出てくるとは思っていなかった。
ここ数年のプロフィールは確認していたが、書類上では特に目立った言動はしていなかったと聞く。
つまり、情報を集めた諜報部の漏れか、ここ最近で急にこのキャラに変わったか。どちらかだろう。
おい諜報部、仕事してくれ。帝国の諜報部は他国に比べても優秀なはずなんだけど。可笑しいな。
現実逃避しつつも、もう一度隣を盗み見る。
そこでは、未だに演説を続けているミスズ様がいる。
もう何を言っているのか分からない。修飾過多だよ。
校門の時点でそそくさと逃げたのだが、この変人は気にも留めずついてくる。
始めは「人違いでは~?」などとやんわりお断りを入れたのだが、全く届いていない。
もう話しかけるのも億劫だ。無視しよう、無視。
どうせ学年も違うし、教室の中まではついてこないだろう。
さっさと早歩きの私の横で、ミズズ様はスタスタとその長い脚を使い楽についてくる。
何故か再びイラッとした。
「それでは先輩、失礼いたします」
教室の扉のところまで到着した私はくるりとミスズ様へ振り返り、ニコリと愛想笑いを浮かべる。
少々威圧感を滲ませてしまったのか、ミスズ様はどうあっても止まらなかった口をポカンと開けたまま黙ってこちらを見つめている。
私の反応が全くなくて傷ついたのだろうか?
気にせず教室へ入っても良いのだが、なんとなくこの方は悪い人ではないと感じる。
「悪鬼レイカ=ダイドウジ!」なんて言っていたし、恐らく昨日レイカ様に呼び出された事をどこからか聞いたのだろう。
つまり、私を気にかけ守ろうとしての行動である。
その心意気だけは感謝したい。
「先輩、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ? 私、これでも女ですから」
そう思うと、何故だか妙に年上の先輩が可愛く見えてきた。
クスッと微笑を零してしまうと、ミスズ様はビクリと肩を震わせる。
え、なんで?
「では」
彼女の反応が気にはなったが、別段問い詰める事でもない。
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