ハーメルン
それが、あなたのご注文なんだね
うちに泊まるからには掟に……えっ帰るの? そう……

「二人とも、こんな天気なのに遊びに来てくれてありがとね」
「別に……バイトの予定がなくて暇だっただけだし」
「私は万が一のための付き添いよ」

今日はちょうど時間が空いたらしく、シャロさんと千夜さんがラビットハウスに客として来ていた。
外はバケツをひっくり返したような大雨、彼女らがラビットハウスに来た直後に降ってきたそれは、予報によれば夜中まで降り続くのだとか。

「付き添いってなによ?」
「だってシャロちゃん、覚えてる?」
「なにをよ?」
「初めて酔った時のこと、家の中でキャンプファイヤーしようとしたわよね?」
「しっ……ししししてないわよそんなこと! こんなところで言うなバカー!」

千夜さんのおちょくりに対してシャロさんが突っ込む。
もはや見慣れた光景だ。
僕にはそう言った人は家族以外にいないので、素直にうらやましい、と思った。

「それにしても、外の雨、止む気配ないわねえ」
「私たちが来たときは晴れてたのに」
「きっと誰かさんの日ごろの行いのせいよ」

シャロさんはジトっとした目で千夜さんを見て言った。
千夜さんは小首を傾げた。

「シャロちゃんが来るなんて珍しいことがあったからかなぁ」
「私のせい!? 今度行くって言ったじゃないの!?」
「えへへ、冗談だよぉ」

シャロさんが叫ぶ。
ココアさん、千夜さんの天然ボケにシャロさんが全力で突っ込むので、店内にはほかの客がいないにもかかわらず、非常に姦しくにぎやかな雰囲気になっていた。

そんなシャロさんの目の前に、一杯のコーヒーが置かれる。

「シャロ、コーヒー苦手なんだろ? 本当に大丈夫か?」
「ありがとうございます、少しなら多分大丈夫です……せっかく先輩が入れてくれたコーヒーですし」

コーヒーを持ってきたリゼさんが心配そうに言う。
カフェインで体調を崩すわけではないらしいが……先ほどの千夜さんの発言が少しひっかかる。

「……千夜さん千夜さん」
「なあに? なるくん」
「家の中でキャンプファイヤーって何? シャロさんってそんなパーリーピーポーな人種なの?」
「パーリーピーポーが何か知らないけど、言葉通りよ?」
「それだとラビットハウス自体がキャンプファイヤーになるよ……シャロさんの家ならできるんだろうけど」
「シャロちゃんの家ならできると思ってるの?」
「できないの?」
「……いえ、なんでもないわ、まぁ見てて」

千夜さんはにっこりと笑った。
あぁ、これは、なにか面白いものを見る目だ。
シャロさんの実家では家屋内で火を囲みオクラホマミキサーができることには一辺の疑いもないが、不安だ。

……思っていると、シャロさんがコーヒーを口元へ持っていく。

――1分後。

シャロさんの頬に赤みがさしていく。
しかし、特別何か変化があるわけではない。

ーー2分後。

目がとろんと座り、瞳が潤んでいく、呼吸も心なしか深く熱い。

彼女はさっきまでしきりに喋っていたのが嘘のように、静かにリゼ先輩のコーヒーを味わっていた。

ーー3分後。

頭が左右にふらふらと揺れ初める。
そして、シャロさんは唐突に、弾けるような無邪気な笑みを浮かべて、言った。

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