ハーメルン
鬼滅の刃if~焔の剣士と月の鬼
第十七話:芋羊羹

「ふんっ──はっ──」

 杏寿郎は庭先で竹刀を振り回していた。

 三日三晩安静に過ごし、弟の作る芋料理をたらふく……そう、たらふく食って、煉獄杏寿郎は復活した。
 医者が呆れるほどに、回復は早かった。

「あ、兄上ぇ。まだ安静にしていないと、ダメですよぉ」
「む? 千寿郎か、おかえり!」
「た、ただいまもどりました」

 千寿郎は学問を学ぶために近所の学び舎に通う。これは杏寿郎も同様だったが、鬼殺隊へ入隊する頃には通わなくなっている。
 学び舎に行く前には口を酸っぱくさせ「安静に!」と言っておいたのだがこのざまだ。

「千寿郎、一緒に汗を流すか?」
「はいっ兄上──そうではなくって、休んでいてください! 三日前には重度の貧血でまともに歩けなかったではないですか!!」
「むぅ。俺はこの通り元気なのだが」
「それでもダメです! さっさっ。部屋で休んでくださいっ」

 ぷくぅっと頬を膨らませた千寿郎が、兄、杏寿郎の背中を押して家の中へ押して行こうとする。
 だがその背中は一向に動こうとしない。
 特に抵抗している様子もないのに、それでも千寿郎は兄を動かすことすらできなかった。

(僕は無力だ……。万全ではない兄上すら動かせないなんて)

 ふと千寿郎の力が弱まった瞬間、今度は杏寿郎が突然動いた。
 突然だったので千寿郎がガクりと前のめりになる。
 図らずも兄の背中にしがみつく形になった千寿郎を、その兄がしゃがんで背中で受け止める。

「ふははは。すまんすまん」
「もうっ、兄上ぇ」

 ぽかぽかと兄の背中を叩く千寿郎。
 ずっとこんな日常が続けばいいのにと、そう思わずにはいられない。
 たとえそれが叶わぬとしても。

「そうだ千寿郎!」
「はい?」
「甘味屋へいこう!」
「え?」
「さっき近所を散歩していたのだが、そこで甘味屋を見つけたのだ!」
「あ、ああ! 先月出来たお店ですね。僕もまだ行ったことはありませんが」

 大して賑わいのない田舎の村だが、それでも町から町への移動で通り抜ける者もいる。
 そういった者たちを客に商売している宿が飯屋がこの村にもいくつかあった。
 先月、杏寿郎のいう和菓子の店が開店した。

「この時期だ。芋餡を使った饅頭があるかもしれない!」
「そうですね。じゃあ僕、荷物を置いてきます」
「うむ! 急げ、千寿郎!! 売り切れてしまってはもともこもないからな」

 なら散歩の際に買って帰れば良かったのに──とは千寿郎は言わない。
 恐らく兄は自分を待っていてくれたのだろう。大好物のさつま芋の和菓子であれば、直ぐにでも食べたかっただろうに。

 逸る気を抑えて千寿郎は勉強道具をしっかり自分の部屋へと置いて、それから慌てて外に出る。
 杏寿郎も逸る気を抑えていたのだろう。
 ぱたぱたと足踏みをし、今にも駆け出しそうだった。

「兄上、お待たせしました」
「よし! では行くぞ千寿郎」
「はい!」

 元気に返事をする千寿郎に、兄が手を差し出す。
 その大きくて暖かな手をそっと握り、二人は意気揚々と駆けだした。

 そして──

「よもや……」

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