ハーメルン
兄さえいればいい
01.入学式の朝

 
 まずはじめに暗闇があった。
 進む方向も、天と地すらもわからない暗闇を、己の肉体の感覚のみを頼りに進む。
 どれほど歩いたのか。数歩かもしれないし、永遠だったかもしれない。ふいに光に包まれ、自分の脚が見えた。
 そこはホグワーツ城の門へ通じる橋だった。
 濃い霧のせいで、城は見えない。どこからか川のせせらぎか聞こえてくる。その音を頼りに、歩みを進める。
 暫く歩くと川の音がいよいよ大きくなって、橋の終わりが見えた。石畳のむこうに広がるのは暗緑色の草むらと、どこまでも暗い水面だった。
 水際に、真っ黒な石板が佇んでいた。
 あれを見なければ。あの碑文を読まねばならない。
 使命を果たさねば。
 それだけが、我々の…

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 私は目を開けるとゆっくりベッドから起き上がり、カーテンを開けました。

 またあの夢です。
 何かワクワクする日の前夜は大抵こういう夢を見ます。やけに現実的で嫌な感じのする夢です。もっと子供の頃はこの夢を見るたびに泣いて起きて、ぬいぐるみを抱きしめて震えていました。
 大きくなるにつれ、ただ“また”か…と落胆するだけになりましたが、それでも無意識から零れ出た根源的恐怖からは逃げられません。

 ヒトの意識というものはまるで自分自身であるかのように見せかけて、時々制御を離れ、見たくもない幻想を見せます。
 霊魂の存在は遠い昔に証明されています。意識が肉体に芽生えるものだとしたら、肉体が寝ている間に見る夢とは魂が見せている光景なのでしょうか?

 ヒトとはつくづく不可解で不完全なものです。


 枕元の時計を確認すると、ちょうど午前七時でした。
 起きたいと思った時間に目が覚めるのは私の特技の一つです。けれども時々なんて面白みのない朝だろうとも思います。例えば冬の朝に温い布団に包まれて、何時ともわからない夢心地に浸るような事ができないわけですから。

 私は起き上がり、今日着る予定の服に袖を通します。
 ああ、そうでした。夢に引っ張られて嫌な気持ちになっていましたが、今日は物心ついたときからずっと楽しみにしていた日です。

 きちんと服を着て鏡の前に座り、小さな鈴を鳴らして空中に呼びかけました。

「ドビー!」

 するとバシッという音を立ててしもべ妖精のドビーが現れました。

「おはようございます、ソフィアさま」

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