ハーメルン
始原の精霊は隠居していたい
運命の分かれ道

「やあ、もう一人の私。名もなき意識。……なんてね。けったいな名前で呼んでみたけど、君は単なる私の二重人格に過ぎない。でだ、君は百年前くらいに自らの意思で死んだ、と思い込んでいたけれで、単なる仮死状態だったわけだね。道理でいきなり意識が戻ってきたわけだ。で、私に何か言うことは?」

『……お前みたいなやつに言うことは、何もない。あの人が死んでから表に出なくなった、生を放棄したお前が、今更ボクに何の用だ。自分の体が惜しくなったか?」

「いやいやまさか。君が私の体をどう扱おうがどうでもいい。むしろ好きに使ってくれて結構」

『は?何言ってるんだお前』

「けれど、それは君が私に面白い景色を見せてくれたら、の話だ。今の君は何だい。一人で勝手に絶望して、何の策も講じず、氷の檻に閉じこもる。三流映画以下だよ。はーくだらない。三流主人公でももう少し、何か悪あがきするもんだよ」

『お前に何がわかる。同じ絶望を二度味わう事がどれほど苦痛なのか。私はそれよりも前に、お前という個体を演じることに心底嫌気がさしていたんだ』

「二度同じ苦痛?…………。ああ、そうか。君はアイツが死んだときにはもうすでに()()わけか」

『ああ、そうだ。あの頃はボクはお前の見る景色をずっと見ている事しかできなかった。けど、お前が意識を手放し、ボクは怪しまれないためにお前を演じる必要があった』

「知ってるさ。それを承知で私はお前に体の支配権を渡したんだから」

『……お前、頭おかしいのか?ていうか、ボクの知っている【紀野感無】の性格は、そんなものじゃなかったはず……』

「当たり前だ。そもそも現実世界での『紀野感無』という人間性は私が自ら作り偽ったモノにすぎない。偽物なんだから。私は自分のことを『意識を持ってしまったナニカ』としか思ってない。けれどそれだと日常で過ごすには余りにも面倒で、厄介な事この上ない。人間の、特に日本人という人種は、決まり事から外れたモノは徹底的に省く修正があるようだからね」

『……』

「それと、もう一つ。元々がかなり面倒臭い事この上ない、クソみたいな性格なのに加え、紀野感無が……いや、私自身が設定をした『アテナ』というプレイヤーの設定も、私と混合しつつある。いや、侵食と言ったほうがいいかな」

『は?』

「周りの事に基本無関心で、自分の好きなようにしか動きたがらない、己の身が第一の、傲慢で独りぼっちな始原の精霊そのものに成りかけてるのさ。君のおかげでね」

『ボクの……?』

「ああ。厄介な事になるだろうね。楽しみで仕方がないよ。ああでも心配はいらない。君はそこで大人しく、残りの人生を謳歌すればいいさ。退屈で死ぬほどつまらない、死んだほうがマシな人生を」

ああそうさ。私の読みが正しければ、ある手段でこの檻は壊せると考えてるからね」




それに、最後の、最終手段もあるし、ね。
ソイツは、仲間への想いだけは誰よりも強く、そして異常なのだから
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