ハーメルン
(旧)娘が悲劇の悪役令嬢だったので現代知識で斜め上に頑張るしかない
3)おダシの国の人だから1
日本のメシはあの世界でも有数の旨さを誇っていたと俺は思う。日本料理がではなく。日本人の作る料理が、である。
そこには根本的に徹底したダシの文化の影がある。
ダシと旨味。それらが効いている料理が旨いと知っている日本人の作るメシは、基本的に旨い。
そしてソレを支える優れた食材も見逃せない。
徹底的に食べやすく品種改良された食材は、工夫のない時代のモノより圧倒的に、美味い。
確かに水分不足の土壌で、大した農薬も使わず作った野菜は味こそ濃いが皆エグみが強すぎて、なんと言うか、"中世ってまだ未開地なんやな"って理解できてしまう仕上がりなのだ。
そしてそんな素材が冷蔵庫などなく、もちろん鮮度を保てずに保管されている場合。
どんな調理法が発展するか。
その1つの可能性が、野菜を煮出した水を沸き立たせてその汁を捨て、また崩れるほどに煮込み直す某イ◯リス式の地獄文化であり。
そんな食材の旨味の一切を捨てて、ダシの事など考えず多数の調味料だけで味を整える悪魔の所業こそが、我が国の料理である。
見た目だけはよく工夫されているそれらを初めて口に入れた時、俺は果てしなく深い虚無の宇宙を漂う事になった。
やべぇ、俺の国の料理が不味すぎ問題。
こんなモンで育ったらそりゃどんな奴だって冷血漢に育ちますよ(超偏見)
この国いわくの高い料理を食して"ああ金かかってんな素材と調味料の値段的に"としか感想を抱けないような代物は、きっと料理と呼ばないほうがいい。
むしろ料理に失礼である。
こんな世界ぶっ壊してやる。
食育は大事なんやぞ!
そんな決意に燃えた俺が手掛けたのはまずはダシの文化への理解であった。
日本に生まれて20年間。みっちり姉ちゃんによって仕込まれた(ヘタレな)男である俺にとって、料理とはすなわちホームグラウンド。
今まで散々姉ちゃんのわがままで鍛え上げられ、工業大に入った癖に、「料理人という人生もいいもんだよな……」なんて考えるまでに追い詰められた弟力が火を吹くぜ!
なぜか少しだけ濡れる瞳の端を拭って、俺が決意と共に拵えたのがこの一品。
ダシのなんたるかを知らせるのに一番良いものを用意する準備が、当方にはある。
“コンソメスープ”
この肉をわざわざ細かくミンチにし。
数々の香味野菜を細かく切って卵白と一緒に混ぜた後、それを長時間沸き立たせずに煮込んで、澄んだスープと仕分ける作業を1サイクル12時間。
その後、半日冷まして最初の行程から2~3回繰り返すという、恐ろしい手間をかける料理界の風雲児で、馬鹿舌共にダシの凄さをわからせてくれるわ。
いや、フランス人も大概変態なんやなって。
ちなみに自宅でTVに影響された姉ちゃんにコレを作れとめいれ…、いや頼まれた時は。
3連休の初日から始め、連休の終わりにやっと完成したコイツの姿と、それにかかった材料費のあまりの高さのダブルパンチで泣きに泣いた記憶がある。
……正直めっちゃつらかった。
いや味はもちろん大変美味かったけれども。
俺はそれでコンソメスープの素って奴がいかに凄いモンなのか、誰よりも学んでいたりする。
そんなスープの練習の為、俺の指示通りにひたすらこのスープ作りに挑んだ我が家の料理長のケリーがなんども深刻な表情で、「……どうかしている」と首を横に振りながら調理し続ける姿が、なんだが昔の自分と重なって泣けてきたが、モノ自体はどうにか完成。
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