南北朝の動乱
オーギャッツ侯爵とクボー侯爵の領土を併合したシャルロットは、三千の軍勢を率いてサマリーノ公爵の領土へと侵攻を開始した。サマリーノ公爵もサガミールの丘での敗戦により信望を失い、近隣の諸侯や傭兵隊からは半ば見捨てられている。動員できる兵力は領民兵ばかりで二千程度にすぎない。シャルロットたちの陣営には高位メイジと精兵の多いことを考えても負ける要素はない。
とはいえ、油断するわけにはいかない。サマリーノ公爵たちも圧倒的な兵力差から、負けるわけがないと慢心した結果、大敗北を喫したのだ。自分たちが同じ過ちを犯すようでは、よい笑い者というものだ。
クボー侯爵領に進軍したときのように、シャルロットの護衛騎士であるアルヌルフを使い魔のシルフィードに乗せ、上空から周辺を見張らせて慎重に軍を進める。加えて上空からの目だけでは不安なので、同時に斥候も放って敵の姿を捜させている。
だが、領内に入ってしばらく進んでもサマリーノ公爵の兵の姿は見えない。もしや援軍が来るまで籠城するつもりだろうか。そうなると、面倒だ。そんなことを考えていると、斥候の一人が慌てた様子で戻ってきた。
「シャルロット殿下、どうやらサマリーノ公爵は城を捨てて逃亡したようです」
「それは確かなの?」
「はっ、複数の住民が、南へと逃れていくサマリーノ公爵の一行の姿を目撃しておりました。おそらく間違いないかと」
どうやらサマリーノ公爵は、勝ち目がないと見て逃亡をしたらしい。公爵はサガミールの丘でも他の陣営を助けるでもなく、早々に退却をしていた。そのような人物に総大将を任せるなど、ジョゼフは人を見る目はないようだ。
ともかく、広大な公爵領を一日もかけず、しかも一滴の血も流さずに手に入れられるのは嬉しい誤算だと喜んだ。しかし、万事がそう都合よくいくはずもなかった。
サマリーノ公爵の城は確かに無人だった。しかし、城に入ったところで公爵に仕えていた貴族たちの一部が、ガナーノ子爵を盟主としてシャルロットたちに徹底抗戦の構えを見せているという報が入る。ガナーノ子爵たちの動向も気になるが、それよりもオーギャッツ侯爵やクボー侯爵、サマリーノ公爵の領土に対しての正式な領土割も必要な時期だ。
シャルロットは本隊と別に、モローナ伯爵、シバー子爵、マヤーナ男爵、リョシューン男爵に隊を率いらせ、それぞれに別行動を取らせることにした。ただ、これまでが地面の下で戦ってきたことで軍旗が全く足らない。仕方なく、旗はそれぞれの隊が別の色を用いることにした。ひとまず五色備えと号して物資不足を隠して各地に軍を派遣する。
抵抗を続けるガナーノ子爵たちに対しては、モローナ伯爵の赤の軍旗の隊に副将としてアルヌルフと一千の兵を預けて討伐に当たらせることにした。シバー子爵の黒の軍旗の隊は八百を率いて東に、マヤーナ男爵の白の軍旗の隊は六百を率いて北西に、リョシューン男爵の青の軍旗の隊は六百を率いて南西に向かう。シャルロットたちは元サマリーノ公爵の本城に残って内政の立て直しと周辺諸侯への調略を行う。
調略にはローゼマインとキュルケたちも協力してくれている。やっているのは、皆で文を書いては諸侯に送りつけるということだ。オルドナンツを使わないのは、返ってくるかわからないのに、大量のオルドナンツを使うほどの余裕はないからだ。
ソワッソン男爵など、かつてのシャルロットを知る者たちも駆けつけてくれたとはいえ、現時点でのシャルロットが動員できる兵力は五千ほど。総兵力が二十万に迫ろうかというほどのジョゼフの兵力とは雲泥の差だ。さすがに全軍は動かせないにせよ、次の戦いでは更に数を増やして十万近くの軍勢を派遣されてもおかしくない。それを避けるためにも敵の切り崩しは必須だった。
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