ハーメルン
ヨタ話
吸血には快楽を伴うという俗説に内心ちょっと期待してた



ざく、と牙が通る感触。
切り裂かれた肩、首元の方から沸き出る血液を、ユーケミニがその舌に得ている様だった。

想定と全く異なった直接的な接種手法。自身の肉の裂ける感覚、それに肌に触れる舌の触覚に面食らう内に、耳元から特徴的な音が聞こえて来る。

ひらけた口から吐き出される息の様な音。
長く、永く延びる吐息の音。

しかしそこに風を感じることはなかった。
ユーケミニの口元から動きを感じることはなく、どころか寧ろ何か持って行かれる感覚を強く受ける。
気付けば、肩肌に直接触れる感覚は途切れていた。なのに唯、肩の傷口から血を持っていかれている。
感覚から状態を察して気付く。前に見た吸血行為と同じく、血液がひとりでに彼女の口元へと運ばれているのだろう。


吐息の様な音は、続いている。


この身が感じているのは、血を飲まれ行く感覚というよりは、単純に血が減っていく感覚だろう。少しずつ、遅々としつつも怠さのようなものが回ってくる。

これに身を委ねて、じっと時を過ごす。

腕を掴む彼女の手からは、もう冷たさは無くなっていた。
互いの体温が馴染んだのだろうと考えていたそれに、しかし徐々に温度を感じる様になって行く。
思えば最初に触れられた時にも暖かさを感じたのだった。吸血によって体温が高まるのだろうか。


吐息が続いている。


薄く延びる音を意識に入れながら、ぼうっと虚空を俯瞰する。

何処か手持ち無沙汰だ。
じっとしているしかないのだから、何処かと言わずとも唯そうであるのだけれど…。

何だか落ち着いた、ぼんやりとした風で居られるのが心地良くて、けれど不思議に感じる。
心地良さと違和感の同居した感覚は、未知と既知の何方にも共に身を浸している様で。やはり果ては心地の良さとして解釈された。

時間はゆっくりと、流れていく。


吐息が続いて———。
長、くない?


そう思って我に帰った。
ぼんやりと心地良い、ではない。これは気を失いかけているのだ。大方、出血多量で。
落ち行く意識と薄れる体感覚に、気付いて思わず身じろぎする。不味い。思ったより身体が重い。少しでも動くことで気付いたのは、想定より当の先に行ってしまっている状態だということ。
逡巡して、呼び掛けを試みた。

「—————」

確かに口を開いた。しかし喉は鳴らなかった。
成す術を失くした口があわあわと開閉している。それも酷く緩慢に、だ。
……嗚呼、上げようとする腕もやけに重い。これに尽力していれば、座した身の上体。そのバランスすらをも崩してしまう。
気付けば寒気も知覚していた。体温が低下している?

揺れる身体は、飲みづらく感じたのだろう。
ユーケミニによって抱き寄せられる。
う、暖、柔らか——— ではなく。

身体を包む優しい衝撃に比して、少々重過ぎるめまいが頭蓋を襲う。
これは、不味いのではないか。
大分、危ういのではないか。


吐息は続いている。


ようやっと挙がった手が、彼女を二度、弱々しく叩く。
しかし意には介されていない様だった。困った。最早押して身を剥がそうと込める力も、在って無い様な程にしか入らない。

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