廃嫡されたい第一王子、宝物庫を漁る
『……ああ、おかわいそうに』
『こればかりは仕方ありませんわ』
この国は、古くは竜の血を引く王がいたとされる歴史ある国である。
故に、高位の貴族には火や水、雷や風など自然を司る魔法を扱える者が多くいるのだとか。特に王族では、火を中心に軍勢相手に用いるような高火力の魔法を使うものが多い。あの父でさえ、扱うのは広範囲を焼き払う『烈火の風』の魔法というそれこそ王族らしい魔法だ。
そう、魔法はある程度遺伝する。
母さんが『他者の疲労を回復する』魔法を使えたように。
だから――――俺が地味な魔法しか使えないことは『仕方ない』のだと言われた。
――――――そんなわけがない。
皆、口には出さない。
けれど、元々が低位の貴族であり―――父に見いだされた母を下に見ていた。血の純度が低いとか、卑しいとか。
けれど。母上がなぜ責められなければならないのか。俺の力が及ばないのなら、俺の責任だ。
なのに、どうして母上が悲しげな顔をしなければならない。
どうして、俺はこんなにも弱い。
治癒が“慣れ”で早くなろうとも、耐性がついても。実戦では何の役にも立たないだろう。 流石に物理的なダメージには、どれだけ身体を痛めつけても慣れてくれそうにない。毒は種類が豊富すぎて、それこそ新しい毒であれば致死は避けられないし強すぎる毒では回復する前に死ぬ。
ならば、と勉学に励むが『視野を広く』『没頭しすぎない』ようにとばかり言われる日々。放っておかれる苦しみも、誰も助けてはくれないもどかしさも。為政者には不要なものだという。冷厳でなければこなせないのなら、俺には致命的に向いていない。
だって、俺も持たざるものだ。
戦う才能がない。勉学は苦手ではないが政治には向いていない。大きく見積もってもせいぜいが、一つの部所の長程度の器でしかない。
ああ、そうか――――俺は、結局のところ王には向いていないのか。
弟の魔法が判明し、今度は同情する声などなかった。
数代前の国王と全く同じ魔法だ。それが不足であるような物言いをすれば首が飛ぶ。
弟が前に出ている時は、皆同情などしない。
俺ができないのは、魔法が悪いからだと。母上が悪いからだと皆が思っている。そんな馬鹿な話があるだろうか。
だから俺は、どうしても自分の有能さが認められないのであれば。
後は俺自身の資質の問題だと、証明するしか残されてはいないのだ――――。
「~~~♪」
「いやまあ、都合が良いといえばそうなんだが……」
鼻歌を唄いながら、俺の背中に張り付いているのは公爵家のご令嬢、フィリア・アグリア嬢である。公爵家とは……令嬢とは……まあ境遇からすると仕方ないのだが知らない人間からすると目を剥くような光景である。ちなみにフィリアが長時間同じ場所に立っていると、地面が融解する。草の上を歩くとすぐ燃える。
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