ハーメルン
第一王子は廃嫡を望む
廃嫡されたい第一王子、札束で殴る




――――フィリア・アグリア公爵令嬢は不思議な立場にある。


 社交デビュー間近の年齢でありながら、長年の病気療養(嘘だが)から一切令嬢としての教育を受けていない。父であるオーリス・アグリア公爵は北方の守護を担い、幾つもの鉱山を所有する4つの公爵家の中でも最大の家だ。

 その唯一の直系がフィリアであり、最愛の妻を亡くした公爵は再婚することなく跡継ぎとして親戚から養子をとっている。つまり、本来であれば婿養子を迎え入れるような立場であるのだが明らかに無理だったので既に手を打ってるのだ。





 肝心のフィリアだが、この国の婚姻において最も重要視される魔法は『天体魔法』と意味不明である。一般に爵位ごとに規定される魔法の大体の規模は男爵位が『自分を対象』、子爵位が『数人程度を対象』、伯爵が『中隊レベル』、侯爵が『大隊レベル』、公爵が『軍勢レベル』となる。王族はたまに評価規格外の者もいるが、大体は公爵家レベルと変わらない。


 ちなみにルークは『自分に対する超適応』魔法なので男爵規模。弟のレオンは『千里眼』なので国を対象とする評価規格外。父である国王は『烈火の風』なので公爵レベル。

 ティナは厳密には自分の加速なので男爵位相応。これが手を握った相手が感電しないのであれば子爵相当となる。

 アリオスは数名を対象とするので子爵相当。




 こうしてみると爵位に関わらず中には極めて優秀な人材がいることがよく分かる。が、もしアリオスの魔法の効果範囲が広がったらどうだろうか。中隊レベルの人数が完全に気配を断って移動してくるなんて恐怖でしかない。もちろん、より強力な索敵魔法によって暴かれることはあるだろうが。



 そしてフィリアは王族でも滅多にお目にかかれない、天災レベルの魔法の使い手といえる。一応、過去の記録には疑似太陽を出現させる国王がいたことはあるらしいが。何を隠そう竜の血を引くという初代国王のことである。






「~♪」



 鼻歌を歌いながら、ルークから贈られた元国宝の布を使った下着を纏って鏡の前で一回転する。最初はオシャレもへったくれも無い黒い布であったが、職人たちの手によりシュミーズとドロワーズのカタチにはなっており。これに靴下、手袋、髪留めを合わせることでその上からようやく人並みのファッションを楽しめる。

 今回はお忍びでのお出掛けということだが、そもそもロクな服を持っていないことが発覚。職人を呼びつけた公爵によりそれなりのドレスの在庫を得たフィリアは蒼色の大人しめのアフタヌーンドレスを身に着け。

 色々と燃やす心配が無くなったことで専属のメイドも付いた。ちなみにメイドからは人に慣れていない様子に加えて珍しいプラチナブロンドの髪、ほぼ日に当たったことのない色素の薄い肌、諸事情から栄養失調ぎみの体格と妖精のようだと言われていたりする。



「お嬢様、今日はルーク殿下とお出掛けされるのですよね。殿下はどのような方なのですか?」




 魔法が制御できず困っていたが、殿下のお陰で国宝を使えばなんとかなると分かった――――そんな大まかな事情は聞いているメイド、サーシャからすると庇護欲を掻き立てられる主の恩人である。

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