第8R 帝王不在の菊花賞
トウカイテイオー、菊花賞欠場。
先日のマックイーンの降着処分からおよそ2週間。
ぎりぎりまでリハビリをしていたトウカイテイオーだったが、快復には至らないと判断し、出走をとりやめ。
皇帝シンボリルドルフ以来の無敗の三冠ウマ娘という夢は泡と消えた。
トウカイテイオーを応援していたファンは悔しいであろうし、トウカイテイオー本人はもっと悔しいだろう。
そしてもう一つ。
菊花賞でトウカイテイオーを倒すと意気込んでいたウマ娘たちも、人知れず悔しさを抱えていた。
11月13日。
悪夢の天皇賞秋からおよそ2週間ほどが経ち。
マックイーンの降着処分で持ち切りだった話題は、トウカイテイオーの菊花賞欠場という事件に上書きされていた。
今日はその、菊花賞が行われる日。
本来であればトウカイテイオーが無敗の三冠ウマ娘になれるかもしれなかった場所で。
そのトウカイテイオーが不在とはいえ、会場には多くのファンが詰めかけていた。
「トウカイテイオーがいればなあ~!完全に一強だったのにな!」
「いや見たかったよ無敗の三冠ウマ娘!」
「今トウカイテイオーに勝てるウマ娘なんかいないだろ!」
会場に来たファンの中には、やはりトウカイテイオーを求める声が多い。
トウカイテイオーの実力と知名度からしても、それは仕方ないことなのではあるが。
(……)
そんな中を、目深にフードを被ったプレクラスニーが歩いていく。
なるべくなら今はファンの声は聞きたくない。
(ネイチャも、こんな気持ちだったのかな……)
自分の近くで、自分の親友が軽視される。
その悲しみは、とても測り知れない。
きっとナイスネイチャは、もっと多くの負の感情を受けるクラスニーの姿を、目の前で見てしまったのだろう。
パドックが見える外側のエリアを抜け、観戦席の最前列へと向かう。
そこにさえ行ってしまえば、余計な声は聞かなくて済むと思ったから。
(ネイチャ……大丈夫かな)
時刻は昼過ぎ。
帝王不在の菊花賞は、間もなく始まろうとしていた。
同時刻。
今回の菊花賞の主役になるはずだったトウカイテイオーは、スピカのトレーナーと共にレース場を訪れていた。
自分が走るはずだった場所。
自分が無敗の三冠ウマ娘になるはずだった場所。
様々な想いが、テイオーの胸を渦巻く。
「……連れてきてくれて、ありがとね」
「……ああ」
スピカのトレーナーも、秋の天皇賞以降まともに休めていない。
とはいえ、テイオーをおろそかにするわけにもいかず、結局ギリギリまでテイオー復活の道を諦めなかったトレーナー。
その身体は度重なる心労と激務で悲鳴を上げていた。
それでも、この菊花賞にテイオーを連れてくることだけは決めていた。
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