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黒閃を経験したか、否か。術師の大成は、呪力や術式のみならずこの経験の有無もものを言う。
「凍結呪法・凍骸」
両手の指通しだけを合わせて呪力を練り上げる雨里。彼の前に現れるのは、いつぞや挑戦していた氷の人形だ。
ただ、その見た目は進歩を見せており、デッサン人形のような姿から高専の制服を着たのっぺらぼうの氷人形となっている。
この造形に感嘆の声を漏らすのは、呪骸であるパンダ。
「ほぉ、やるな京平。正道ほどじゃなくても、ここまでがっつり人形作れるようになったのか」
「やっとここまで、って感じですけどね。オレとしては、もう少し詰めていきたいです」
「上昇志向なのは結構だけども、交流戦も忘れんなよ?」
「それは、はい。大丈夫です」
「ま、京平は一年の中じゃ体術はマシな方だからな」
「……その噂の東堂さん?はそんなに強いんですね」
「まあな。去年は、憂太が快勝したらしいけど。ぶっちゃけ、現状の東京と京都の高専生の中じゃ化け物だな。うちの場合だと、京平か恵を充てる」
「出来る事なら一人で抑える、ですよね?」
「そゆこと。棘の呪言もあるけど、そっちは実力差で効果がまちまちだからな」
見た目の奇抜さに反して、確りと先輩やっているパンダ。ついでに、夜蛾を除けば当人が呪骸であることも手伝って、この手の教導は一番向いているともいえる。
京都姉妹校との交流会。もとい、交流戦へと向けて今やるべきことは新たな力の獲得、ではなく基礎の見直しが主だ。これは、交流戦までの時間と、それから鍛え上げるべき一年が術式に関してはある程度扱えると判断しての事。
「―――――ぶへっ!?」
「ツナマヨ?」
「おーい、野薔薇ー。言っとくけど、棘は割と肉体派だぞー。油断すんなよー」
少し離れた所で狗巻に軽く投げられた釘崎へと、パンダはそんな言葉を投げかける。
やはりどうしても、性別の壁は超えにくい。いくら呪力で強化できるといえども、やはりその下地がボロボロでは直ぐに破綻してしまう。
釘崎がポイポイ投げられているのも、受け身の一つもまともに取れなければお話にならないからだ。
そも、才能ありきの呪術界隈ではあるがだからと言って一芸のみで生きていけるほど温くはないし、そんな者は実戦でアッサリと命を落としてしまう。
手札の多さは、そのまま自分の身を守るための手段の多さ。そして身を守るということは、生き残る手段でもあるのだから。
「んじゃ、俺らも組手やるか」
「はい。お願いします、パンダ先輩」
「ふふん、先輩の威厳を見してやんよ。あ、今度は人形三体を維持したままな?」
「了解です」
*
伏黒は、考えていた。
強くなるとすれば、彼の場合は式神の調伏をすればいい。というか、彼の場合はそれしかないし、オリジナルの拡張術式はどうしても本来の術式と比べると出力に劣る。もっとも、破壊されても手駒が減らないのは利点ではあるが。
一体の調伏は、少し前に終わらせた。それでも、完全に破壊された大蛇の件を考えると手札の幅が広がったとは言えない。
式神だけでは足りないのだ。だからこそ、こうして近接戦闘における技術を磨こうとしている。
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