ハーメルン
Ice Time
12

 季節外れの木枯らしでも吹いたような空白。

「え、あの…………女性の、タイプですか?」
「ああ、そうだ。性癖には、そいつの全てが反映されている。それが詰まらん奴は、人間的にもまったくもってつまらん。そこの伏黒の様にな」

 堂々と頭のおかしい理を平然と語る東堂に、雨里は無意識のうちに伏黒へと視線を送っていた。逸らされてしまったが。
 
「さあ、答えろ。男の趣味でも構わんぞ?俺は、性癖で差別する気はないからな」
「………」

 答えを急かしてくる東堂だが、雨里は黙ってしまう。その眉間には皺が寄っているし、表情は困った、という内心を如実に表していた。

「………………考えたことないですね」
「なんだと?」
「女性、というよりも、何かしらの好みを聞かれるような事なんて少し前までありませんでしたし、そんな事を語り合うような人もいませんでしたから」

 天与呪縛と術式。これによって、家族関係すらも希薄であった雨里にしてみれば女性の好みなど考える暇などあるはずもない。そもそも、女性との接触というものだって同級生の釘崎、先輩の真希、保険医の家入位のものであるのだから。
 一方で、雨里の返答を受けた東堂は構えを解くと顎に右手をやり頷いていた。

「成程な………一年!」
「はい?」
「お前、名は?」
「………東京一年、雨里京平です」
「そうか。雨里!お前、一般家庭の出身だな?」
「え?あ、はい……そうですけど………」
「やっぱりな」
「ッ!?」

 東堂が頷いた直後、雨里は反射的にその場に沈み込んでいた。真上を通過するのは筋肉質な剛腕だ。

「よく躱したな!」
「いきなりなんですか!」
「お前の境遇は察せられる!だが、女の好みがないという事は、お前状況打破に動かなかっただろう?その時点でつまらんという事だ!」

 無茶苦茶だ、と雨里は内心で毒づく。その上、目の前の東堂は()()
 まず、肉体の厚み、体格の差がある。でありながら、その純粋な速度に関しては現状の雨里よりも速いかもしれない。ついでに、フィジカルも。
 冷静に判断を下した彼は、戦略を決める。

「ふぅー………」

 真希にも褒められた目の良さ。これを、雨里は生かしていた。
 確かに、東堂のスピードに肉体的に付いていくことは現状難しいかもしれない。だが、彼の動体視力に限ればその差は無いに等しい。
 目では追えている。それでも体が最低限度しかついてこない。ならば、()()()()()()()に徹するほかない。

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