17
(鵺が封じられた………赤血操術。思ったよりも厄介だな)
新たに調伏した式神、万象による放水で広い場所へと飛び出した伏黒は冷静に場の把握に努めていた。
相手取る加茂は、三年であると同時に準1級術師だ。ポテンシャルはどうあれ、経験という面は容易に覆すことが出来る事ではない。
幸いと言うべきなのは、術式が比較的知られたものである点か。これは伏黒もそうなのだが、御三家の術式はその歴史から広く知られている。
五条家の無下限術式。禪院家の十種影法術。加茂家の赤血操術。資料も比較的多く、その内容も知られている。
一方で、加茂にもまた負けるわけにはいかない理由がある。
いつの時代の話だと言われそうだが、側室の子であり、同時に術式を継いだ彼にとって実家は決して居心地のいい場所ではない。それでも、彼は家督を継ぐための実績が必要だった。
偏にそれは、最愛の母の為。
「私は、負けるわけにはいかないのだ!」
鵺を縛り上げ、着地した加茂は吠える。そして負けるわけにいかないのは、伏黒もまた同じ。
京都校が勝つという事は、それイコール虎杖の死に直結しかねないから。もう二度と、あんな思いはごめんであるから。
三回の高さから飛び降りた二人は、飛び降りた先で正面からぶつかり―――――
「「ッ!」」
激突する爆音によりその動きは止められる。
見上げれば、津波のように迫る巨木の群れとそれらを押しとどめる様に展開された巨大な氷の壁が競り合っていた。
「―――――」
「くっ…………!」
氷の壁の天辺。前を大きく切り裂かれ下の制服が露となったコートを翻した雨里は怒鳴りながら、足元の氷を右足で踏みつける。
「凍結呪法・氷龍“連門”!」
氷の壁から生えるようにして現れるのは、四体の龍。
人一人軽く呑み込めそうな巨体を蛇のようにくねらせて、その牙をもって大樹の主へと襲い掛かっていく。
派手な一撃だ。しかし、術を行使する彼の表情に晴れは無い。
すぐさま氷の壁から飛び降りて、距離を稼ぐべく逃走へとシフトを切り替え、
「雨里!」
「!伏黒君!それにえっと………加茂先輩、でしたか」
「ああ……あの氷は、君が?」
「はい………って、そんなこと言ってる場合じゃありません。直ぐに―――――」
「すじこ!」
撤退を、と続けようとした雨里の言葉を遮った狗巻。睨む先に居るのは、ほとんど無傷の特級呪霊だ。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/8
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク