ハーメルン
【完結】デート・ア・ロスト~華恋アンリクワイテッド~
二六ドローイング
自分で自分自身を見つめる。
人生に迷ったときの比喩のようだが、ここではあいにくそうではない。
言葉通り、私が“私”自身を見ているのだ。
その時点で、ああこれは夢だ、と私は理解する。だって、自分を第三者の視点で見るなんて、夢かおばけになったときでもないと無理だろう。まあ、私の識別名はまさしく〈ゴースト〉なのだけど。
ともかく、私は“私”を見つめていた。
私はどうやら犬小屋か何かを作っているようだった。それも一人ではない。モザイクに隠れた、誰かも分からない人物と一緒にだ。
「こんなの、私の力を使えば一瞬なのに」
夢の中の“私”が言う。そうだ、わざわざ自分の手で苦労しなくても、私なら簡単に――
「――――」
すると“私”の横にいたモザイクの影が、何かを言った。でも私には聞き取れない。
「モノを作る楽しさ? ……よくわからないけどまあ、君が言うなら……」
しかし“私”には聞き取れていたようで、返答する。
そのまま“私”はモザイクの影と一緒に、その犬小屋を完成させる。
「……なるほど。これはなかなか」
なんだか嬉しそうにしている“私”。ああ、そうだ。私はこのとき思ったんだ。
楽しいと。心地が良い、と。
それは、私にとっては未知の感情で。
そして、私にそんな感情をくれたのは、間違いなく――
◇◆◇◆◇
「……ん」
華恋はベッドの上で眠たげな眼をゆっくりと開いた。
窓の方を見ると、光が射し込んでおり晴れ晴れとした朝だということが分かる。
彼女はまだぼやけている頭をゆっくりと起こし、ベッドから体を出す。
「……随分とはっきりした夢を見たもんね」
そう言ってベッドから降りる彼女は下着姿だった。
黒のレースが淫靡な雰囲気を漂わせている。しかし、まだボケっとしている彼女の表情からは色気を感じられない。
華恋はその姿のまま洗面台に向かい、顔を洗った。
「ふぅ……さっきの夢は、私の過去、なのかな……?」
顔をタオルで拭きながら確証なさそうに言う華恋。
理屈的に考えればそうなのだろうが、いまいち華恋には実感がなかった。
それはやはり、他人の視線で自分を見たというのが大きかった。
「実感がいまいち薄いのよね……確かに、感情としてはまだこの胸に残っているというのに」
そう言いながらも華恋は服に着替える。
いつもどおり、黒のブラウスに白のロングスカートだ。
「ま、あやふやな記憶についてあれこれ考えても仕方ない……。さて、今日はたしか二亜さんと六喰ちゃんとだったわね。準備しないと」
華恋はわざとらしく話を変えるように言った。
頭をとにかく切り替えたかったからだ。
胸にわだかまる、言葉にできない感情をごまかすために。
「おー! よく来てくれたねぇー! ささっ、入って入って!」
それから少しして。
華恋はいつも通り士道と待ち合わせをし、彼に連れられて元精霊のいる場所へと案内された。
この日華恋が案内されたのは、元精霊達の住むマンションではなく、市内にあるタワーマンションであった。
どうやらそこが、今日一緒の時間を過ごす予定の二亜のマンションらしい。
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