花騎士の新たな戦場、神浜市 1-2
《あー、そういえば言い忘れてたけど》
《うん?》
《帰り道がわからないから、今は特別にあなたに体を貸してあげてるけど、普段は私がメインで使うわよ。あくまでその体は私のなんだから》
《え?》
《え、じゃない、当然でしょ? 他にも理由はあるわよ》
《他の理由?》
《……家には今、母親がいるのよね?》
《ええ、そうだけど。お父さんは植物探検家で世界中を飛び回っててたまにしか帰ってこないけど、健在よ》
《ふーん、そう。まあそれはいいわ。とにかく――不用意に誰かに触らない方が良いわよ。あなたは「花騎士カトレア」初心者なんだから》
《はあ……》
《わかってない様ね……まあ、百聞は一見にしかずよね》
よくわからないけど、家に着いたので入る。
「ただいまー」
「あら、おかえりカトレア。少し遅かったわね」
「うんまあ、このみさん家と、そのあと燈湖の家にも寄ったから。それよりお母さん、大人しくしてた?」
リビングのソファに座っていたお母さんに近づいて、顔色をうかがう。
「心配性ねぇ。はいはい、言われた通り店を出てから家に直行したわよ。体調も……あ、あら?」
「……お母さん?」
唐突にお母さんの顔色が悪くなる。
「なんか、急に目眩が……」
「ちょっと、大丈夫?」
咄嗟に体を支えて、ゆっくりソファに横にならせる。いったいなにが……
《……ふむ。触っても怪我しないってことは、母親との関係が良好だからかしら》
《え?》
《代わるわよ》
《え!?》
▲ ▽
「お……お母さん、大丈夫?」
「え、ええ、大丈夫。ちょっとクラッとしただけで、もう治ってきたから……」
「そ、そう。ならよかったわ」
うーん……母親というものを知らないから、接し方に迷うわね……
《ちょっと、主導権があなたにあるからっていきなり代わらないでよ! ていうか、お母さんの目眩の理由なにか知って――》
《落ち着きなさい、ただの軽い「魔力酔い」よ》
《魔力酔い? あっ》
その単語だけで気づいたようね。さすが、私が大好きで私になりたいと願っただけあるわね。
世界に愛されている私は、生まれながらに持つ膨大な魔力が体から常に溢れ出ていて、一部の耐性のある人以外が私に触れると魔力酔いを起こしたり、耐性が低いと勝手に怪我を負ってしまう程だった。
今では特訓の成果もあり、かなり耐性の低い人でもせいぜい軽い魔力酔い程度で済むレベルまで、無意識下でも制御出来るようになっていたのだけど……今まで魔力制御とは縁がなかっただろうこっちのカトレアでは、上手く制御なんて出来ない。その証拠が、彼女の母親の魔力酔いだ。
この体質の影響は何故か、「心から信頼できる相手」だと薄まるっぽいので、カトレアの母親が軽い症状で済んだのはその辺りが理由かしらね。
《多分この世界で高い耐性を持っているのは、魔力を扱える人――魔法少女くらいなんじゃないかしら。だから、普段は私がメインよ。わかった?》
《はい、よくわかりました……》
《ん、よろしい》
さて、母親の調子も戻ってきたようだけど、念のため。
「少し休んだら、「私」が夕飯の準備するわね。お、お母さん……は、今日はゆっくりすること。自分を大切にするのよ、わかった?」
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