『AVENGER』中篇
そして現在、私はあのときの決意通りにMRS本社に就職した。
MRS、日本名で傭兵管轄機構とも言われることのあるこの企業は20年前に起業し、その名の通り傭兵を管理、支援することで収入を得る新しいビジネスタイプを採用した企業だ。
行っている事業の内容は、加盟している傭兵に実力に合った依頼を提供し、紹介料として報酬の何割かを受け取るということ、そして練習用のVRアリーナの設置や加盟している傭兵の動きをAIに学習させることで、仮想空間での対戦を実現した新時代のトレーニング装置の設置など多岐にわたる。さらに加盟することによって企業の試作パーツを貰えたりなど特典が多いためほぼすべての傭兵はこの機関に属していると言っても過言ではない。
そんなMRS本社はかつての北アメリカ大陸の西部、シリコンバレーなどがあった場所に本社を置き、その地の周辺で盛んだった半導体技術を独占し本社の機械化をとてつもない速度で進めている。それ故に、人件費の大幅な削減に成功しており、収入は起業した当時よりも爆発的に増加している。しかしながら、受付や事務、警備などはさすがにAIに任せるわけにはいかないらしく、そこばかりは人を雇っているようだった。
さて、私はこの企業において、総務主任という役職を目標としてきた。
この主任という地位は本社データベースのセキュリティ管理などが一任される、ということから私の復讐の相手、その対象の出撃データをデータベースから漁ることができるのではないのだろうかと思ったのだ。
そのために入ってから私は毎日寝る間も惜しんで勉強して、つい先月に私は主任の地位を手に入れたのだ。
そして、その日からというものの私は毎日遅くまで残ってデータルームのコンピューターをハッキングして、あの年の惨劇を引き起こした依頼を探し続けた。
だが、いくら探しても見つからなかった。
そして、今日
「お疲れさまでした〜」
後輩がそう言って退社したのを見届け、
社内の監視カメラを見て、社内に自分を除いて誰もいないことを確認してから、私は今日もデータルームへと向かっていた。
懐中電灯を片手にノートパソコンを携えながら社内をうろつくその様は傍から見ればただの不審人物だろう。
そして、データルームの目の前に立ち、鍵を開けて鉄の重たい扉を開ける。
中はブルーライトのようなもので怪しく光っており、不気味ささえも感じてしまうほどだ。
そして、ずらりと並ぶスーパーコンピュータのうちの一台にパソコンのケーブルを繋ぎ、カタカタとキーボードを入力し始めた。
そこからは単純作業だ。
依頼記録のデータファイルを開き、成功した依頼の一覧を開く、あとは上から順にポチポチとマウスを押し続けるだけだ。
ファイルのタイトルには依頼名、依頼主名、月日が書いており、ファイル内には報酬や誰が受けたか、そしてその依頼が行われた地名が載っている。
だが、あの惨劇が起こった土地の名前は一向に出てこなかった。
一通り見終えて「今日も収穫なしか…」とつぶやき、ファイルを閉じて電源を切ろうとしたが、連日の睡眠不足がたたってか間違えて失敗した任務の一覧を開いてしまった。
一応見てみるかと思い適当にクリックしていくと、見覚えのある地名が作戦地域のところに入っている依頼を見つけた。
その日時はあのときと一致するうえに、その日の周辺の依頼であの地名を見受けることはできなかった。
つまり、この依頼こそが私の故郷を壊し、家族を奪った元凶なのだ。だが確証はない。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/5
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク