パラレルワールド。
目が覚めたのは、それから二時間後のことだった。
もちろん、時計が指す時刻は登校時刻を大幅に過ぎている。
予期せぬ出来事だったとはいえ、遅刻してしまったことに罪悪感を覚える。
それに、今日はテスト一週間前の大事な授業の日。
ここで授業を受けるのと受けないのとでは、本番の結果が大きく違っているはずだ。
「……まいったな……」
思わず独り言が漏れてしまう。
独り言には自分を落ち着ける意味もあるらしいから、身体が異常事態を感知しているのだろう。それほどまでに、俺の頭は今真っ白なのだ。
外に置いておいたら路上アーティストが名作を描き上げそうなほど真っ白だ。
その白さを見るために海外から観光客が訪れそうなくらい。
そして、各国の美術館を転々として所有者の俺が大儲けしそうなくらい。
そして、グッズ展開してさらに一儲け。
更には、その資金を元手に会社を立ち上げて成功し、世界に名を残す名起業家となって死後に脳を冷凍保存されてその脳が何者かに盗み出されるくらい――
――うん、ごめん。現実逃避はやめよう。ほんとゴメン。
……とまあ、こんなふうに発想がどんどん飛躍してしまうくらいには頭が真っ白だ。
ついでに、身体は思うように動かない。
そりゃ、脳が機能を停止してたんだから当たり前か……。
でも、なんだろう。それにしてもすごい違和感があるというか……。
膝を畳もうとすると、金縛りにあったかのように動かない代わりに「ジャラ……」と金属音がする。どうしよう、すごく嫌な予感がする!
「お兄様、目覚めたんですね?」
正解です、とばかりに刺身の声がした。
背の小さい刺身だが、ベッドに横になっている俺からはやけに大きく見えた。
大きく――不気味に。
片手にリング状になった鍵と注射器を持った姿は猟奇殺人の犯人を思わせる。
そして、もう片方の手にはピストル――拳銃だ。
さらに、心には花束を携えている。
……ジュリーか!
なんかいろいろとアウトだよ妹よ!
注射器とか危ないニオイしかしないアイテムだし、ピストル持ってたら犯罪だし!
心の花束は目で見えないからなんで知覚できたのか意味不明だし!
どうなっちまったんだ世の中は!
二時間のうちに、どうやらパラレルワールド的なところに飛ばされてしまったらしい。
だよな……刺身?
きっと、ここはバタフライエフェクトかなにかで変わってしまった未来の世界だ。
そうでなければ、こんな意味不明な改変が二時間で起こるはずがない!
さあ、答えろ刺身!
この世界が狂ってしまった別の世界線であると――!
「ごめんなさいお兄様、普通にさっきの二時間後です」
「なんでだよぉぉぉぉぉぉぉ!」
普通に二時間後だったよ、怖いよ!
え、じゃあ別に世界の改変とか関係なくこの妹はこの出で立ちなの⁉︎
どうしちゃったの二時間で⁉︎
世界ってこんなに一瞬で崩壊するような危うさの中に存在していたの⁉︎
「そんなに驚かないでください」
「驚くよ!」
だめだ、刺身はこの事態の異常性がわかってない!
あれだ、当事者は別に意識してないけど外から見るとすごいことが起こってるパターンだ!
食人の文化が残ってる民族とそうでない民族がお互いをおかしいと思い合うあれだ!
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