レベルアップ。
眩い光に包まれて、視界が一瞬真っ白になる。
ライトを直接見たときの、数千倍のダメージだ。
脳にまで光が届き、その中を蹂躙されているかのような不思議な感覚。
確実に、初めて体験する感覚だ。
……何十秒たったのか、何分経ったのか。
時間の感覚が、わからなくなる。
けれど、確実に長い時間が経過している。そんな気がした。
反射的に閉じた目を、ゆっくりと開く。
……何も見えない。
朝の日差しに照らされていたはずの室内が、漆黒の闇に包まれている。
眩んだ目が、まだ通常に戻っていないのだ。
「……! そうだ、刺身は⁉︎ 刺身は無事なのかっ!」
視界を奪われる前の最後の記憶を思い出す。
刺身が、光に飲まれて姿を消すシーンを。
……意識が朦朧としてきた。
今すぐ横になりたい。目を瞑って、意識を飛ばしてしまいたい。
……でも、そんなことはできない。
だって、俺は刺身の兄貴だから。
妹の無事を確認するまでは、くたばるわけにはいかない。
……あと、そういえば既に俺は横になってた。
だって、さっきまでの出来事は全部ベッドの上で起こってたからねえ!
俺に馬乗りになってる妹が爆発したわけだから……ん?
……腰に感じるこの重さはなにかな?
みんなも一緒に考えてみよう!
さっきまで、俺の上には妹が乗ってて、俺はその妹を探していて。
俺の腰には、さっきまでと同じ体重が預けられている。
ここから導き出される解は――
うん、刺身、乗ってるね。
「おはようございますお兄様」
「うん、おはよう刺身」
刺身、乗ってたね。
お兄ちゃんは刺身が無事で安心したよ¬¬――
と、彼女の顔を見ようとしたとき、事件は起こった。
「? どうしましたか、お兄様?」
首を傾げる妹。
それもそのはず、だってこの違和感は刺身には感じられないものだから。
つまり、この場では俺にしか感じられない違和感。
……具体的に言うと、刺身に起こった視覚的な変化だ。
だけど、別に浦島太郎みたいに急激に老けたとかじゃない。
性別が変わったとか、急に美しくなったとかブサイクになったとかでもない。
視覚的な変化とはいったけど、別に刺身の外見が変わったわけじゃないのだ。
……だったら何が変わってるのかって?
それは、ええと……
一言で言うのってめちゃくちゃ難しいんだけど……
「……刺身、お前レベルアップしてるぞ」
――そう、レベルアップだ。
一言で言い表すなら、レベルアップ。
なぜそう言い切れるかって?
確かに、この現代でレベルアップとか言われても頭がおかしくなったとしか思えないよな。
でも残念だったな、これが言い切れるんだよ。
……だって、刺身の額に「レベルアップしました」って書いてあるからねえ!
[9]前話 [1]次話 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/1
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク