目覚まし鈍器。
「ごめんごめん! 悪かったからその手に持った目覚まし時計を下ろしなさい!」
「……わかりました。お兄様の脳天に振り下ろせばいいんですね」
「うわあ、目がマジだ! やめろ、やめてくれぇー!」
ちょっ、うちの妹怖すぎるんですけど!
生魚呼びは冗談じゃなく本当に地雷だったらしい。
とりあえず手に持っていた目覚まし鈍器を離してもらう。
うん、素直に離してくれたみたいだな――
と、俺が一人胸を撫で下ろしていると。
「なにしてるんですかお兄様!」
また刺身が真っ赤になって抗議の声を上げてきた。
……ここで赤身とか言ったら命が危ないから自重。
ほら、考えただけで凄い睨んでるもん。
で、今度は何を怒ってるのかな――と改めて顔を確認するのだが。
……ん? 何やらさっきまでの怒りの表情とは違うみたいだぞ……?
さっきの表情がトマトだとすると、この表情はりんご。
わずかに蜜の香りがする。
これは……恥じらいか?
だとすると、どうして?
色々な疑問が浮かんでくるが、どれも答えは出ないまま。
であるならは、俺ができることは一つ。
本人の言葉を待つのみだ。
と、いうことで刺身が口を開くのを待つ。
すると、俺の心を読んだんだろうか。
刺身が、二言目の抗議の声を上げてきた。
「撫で下ろすのは自分の胸にしてください――!」
……なんと。
俺が撫で下ろしていた胸は自分のじゃなく、刺身の胸だったのだ。
つまり、刺身の胸部。おっぱい。
そりゃあ、りんごみたいに真っ赤な顔をするのも当たり前の話だ。
「……話だ、じゃないですよお兄様! ことは重大なんですよ、通報ものなんですよ!」
「待ってくれ! 間違えただけなんだ! そんな、柔らかくて弾力のある魅力的な刺身のおっぱいをどさくさに紛れて触ってやろうって日頃からずっと考えてたりなんて――」
「考えてるじゃないですかっ! というかお兄様? それ以前の問題ですからね!」
「……それ以前、というのは?」
首をかしげる俺。
そして、洗濯バサミ型の宇宙人を初めて発見した人みたいに唖然とする刺身。
いや、そんな宇宙人は発見されていないんだけど。
というか、宇宙人自体まだ発見されていないわけだけど――
「とぼけないでください!」
またも声を張り上げる刺身。
彼女は言葉も丁寧で、病弱だった名残で大人しいはず。
そんな刺身がこんなに叫ぶほどのことが地球上に起こるはずが――
「お兄様、起きたときにわたしの胸を揉んでから一度も手を離してないじゃないですかっ!」
――あった。うん、あったよ。
さすがにこれは仏の顔も一度で大激怒案件だよ。
そういえば刺身の名前の話をしてたときも、女子高生の話をしてたときも。
ついでに刺身の涙を舐めたときも、光に目が眩んだときも。
……俺、刺身のおっぱい掴んだままだったわ!
って、すごいな俺も刺身も!
刺身はおっぱい揉まれたまま俺を殴ってたことになるし、俺もおっぱい揉んだまま仰向けで頭を下げたわけだろ? 人間業じゃないよ。
と、自分に感心していると、またも涙目の刺身氏。
「……いつまで揉んでるんですか――! 指摘されたら離してください――!」
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