ハーメルン
最強になる必要はない。最強を創れればいいのだから。
十七
「………ここ、は?」
目が覚めると、知らない天井……ではなく一度見た事のある天井だった。一回呪力不足でぶっ倒れた時に眠っていた保健室だ。消毒液や薬品の匂いが確信させる。疲労でぶっ倒れたか。
起き上がると鈍痛が走る。
腕には包帯が巻かれていた。
ヒビが入っていたが、呪力の節約の為に反転術式を腕には使わなかったから、まだヒビが残っているようだ。
呪力は四割ほど回復したので反転術式を使い、腕のヒビを治す。その直後、保健室のドアが開いた。
「目が覚めたか」
「……夜蛾先生……天内と夏油さんは?」
「二人とも無事だ。黒井さんも悟も、そこで眠っている子供に救われたようだ。悟に関しては何故か狂気の笑みを浮かべてたが」
「ああ……そう」
雨
(
うるる
)
が俺の寝ているベッドに椅子に座りながら眠っている。あの時、『天逆鉾』を投げられた時にこの子が居なかったら俺は死んでいただろう。
と言うか狂気の笑みってまさか覚醒イベでも来たのか?そんな事を考えている中で、夜蛾先生の表情は険しかった。
「……怒ってますか」
「ああ、怒っている。何故大人を頼らなかった」
「……アレは俺…私が清算しなければいけなかったから。九十九センセーを殺した犯人だよ、あの人は」
「!」
だから頼らなかったし、頼りたくなかった。
無闇に助けを求めても死体が増える事を予想して、助けを求めてなかった。
「元禪院の人間であり、天与呪縛のフィジカルギフテッド。五条さんですらやられたんだ。普通にやって勝ち目なんてなかった」
「そういう事ではない」
そんな言い訳に近い言葉を夜蛾先生は強く否定する。怒っているのはそこじゃなかった。
「……人を殺した事実に、怒っているんですか?」
「そうだ。呪術師はそうならないように護る奴等の事だ。だからこそ、君は頼るべきだった。子供にそんな重荷を押しつける事など俺も、アイツらも望んでない」
「………そうですね」
確かにそうかもしれない。
自分がやった事は私欲に塗れた悍ましい行為だ。復讐心で人を殺すとはそう言う事なのだ。
道を踏み外さないように呪術師がいる。夜蛾先生もあの三人も味方だ。頼らなければ戻れない道だってある事に夜蛾先生はため息をつきながら、心配してくれていたのだ。
「すみませんでした。……迷惑と心配をかけて」
「……全く、入る前から問題児とはな」
「ホントすみません」
そればっかりは頭が上がらない。
ホント、この人いい先生だ。心配かけた事も、黙って来た事も、ちゃんと叱ってくれる善人だ。
「けれど、救われた命もある。君のおかげで天内理子は救われた」
「……いいや、私はクズさ。あの子をダシに奴が来る事を察して助けようとはしなかった。助けたなんて事実は偶然の結果論さ」
「それでもだ」
それは違うと夜蛾先生は言うが、それでも結果論だ。天内を見捨てようとしたのは本当だ。見捨てられなかったけど、冷酷に成りきろうとして、成りきれない事実に天内は救われただけだ。
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