とある出来事:七番隊の場合
「……那由他隊長、いなくなったんだよな」
「ばか、お前!?」
「でも、そうじゃん?」
「それは、そう、だけど……!」
「なんでそんな事が言えるの!?」
とある女性隊士が叫んだ。
七番隊舎は、恐ろしいほどの静けさだった。
隊長の側にいた人だけではない。あの人に触れ合った人皆が思った。
なぜ? と。
「俺らはさ、那由他隊長から“名前で呼んで欲しい”って言われてたよな?」
口火を切った事務担当の死神が言う。
彼は最初、とても強い情熱を胸に灯していたらしい。しかし、実力的な問題から事務方に配属となったようだ。
「どれだけ、俺らはあの人と向き合えたのかな」
彼の言葉に多くの者が下を向く。
彼女は元々五番隊であり八席。しかも、体に敵となる虚の力を宿していた。
これは有名なことで、公言こそされていないが事実と認識されている。
そんな隊長に対して、僕らは距離を置いていた。
一番に距離を詰めようとして矢面に立っていたのは狛村副隊長だ。
「貴殿らの想い、儂が背負おう」
そう言って、緊張した面持ちで隊長と接していた。
しかし、隊長は決して怖くもなければ、強い人でもなかった。
「……これを」
「はい」
僕が那由他隊長と仕事を共にする機会があった。
その時は随分と静かな人だと思ったが、緊張感が強くてよく分からなかった。
「……これを。そこに」
「はい」
なんとなく柔くなった雰囲気に首を傾げながら、それでもどうしたら良いか分からなかった。
「……これを。そこに、置いてください」
「はい」
不器用なだけだと、察した。
僕のような一般隊士に緊張されているとは思ってもみなかった。
[9]前話 [1]次 最初 最後 [5]目次 [3]栞
現在:1/2
[6]トップ/[8]マイページ
小説検索/ランキング
利用規約/FAQ/運営情報
取扱説明書/プライバシーポリシー
※下部メニューはPC版へのリンク