ハーメルン
うっかり怪人♀になってしまったっぽいが、ワンパンされたくないので全力で媚びに行きます。
勝手に踊ってろ

 前略。
 ジェノス、俺、サイタマが一堂に会する可能性が怖すぎて、数日家に帰っていない。

 ──賑やかな市街地の公園で、ただベンチに佇むだけの不審者こと、俺。

「………………」

 我が子を遊ばせている親御さんがたの視線がそろそろ痛い。こいつずっと居るじゃんみたいな。ずっと居ます。
 ──彼らと会うことの何が怖いって。
 それはもう、わかりきっている。
 ジェノスは俺がサイタマと親しいことを知らないし、サイタマは俺がヒーローであることを知らない。そのどちらも、知られて俺にいいことがあるとはあまり思えない。
 いや、元はと言えば、俺が謎多き存在すぎるのが悪いのだ。別にこっちも好きでミステリアスを装っている訳ではない。
 こんなもんがモテるのに役立つとは思わない。ただ邪魔なだけだ。

「…………はあ、」

 ジェノス来訪までにタイムラグが存在するとはいえ、『進化の家』の騒動は、おそらくその日のうちに終わってしまうことである。
 そしてそれは、近所のスーパーの特売日と重なっている。もっと言えば、土曜日。
 数少ない時間の判断に役立ちそうな部分なので、必死に思い出してメモしておいて良かった。

「しかし、曜日感覚のある“新人類”って……」

 妙なところでみみっちい。
 社会の規範を全て破ることが“新人類”らしさとは思わないが、湧き上がってくるこの「しょぼい」という感情は抑えられそうにない。
 阿修羅カブト。
 ワクチンマンや地底人、マルゴリらとはもちろん、その後のボロスやガロウとも一線を画す存在だと個人的には思う。何せ、サイタマの実力を戦う以前に見抜いたのだから。
 言ってしまえば、物語的に必要な解説役だったのだろうが、結果的に特殊な立ち位置を確保することになった。普通にワンパンで死んだけど。

「ジーナス自体はすごい人だしな」

 伊達にゾンビマンを造っていない。
 ワンパンマン世界では、メタルナイトことボフォイや、弱冠10歳の童帝などなど、トンデモ博士が暗躍しているが。その中でも、彼の能力は全く見劣りしていないと思う。
 ……だらだらと、何の益もない話をしたが。
 いい加減、本題に入ろう。親御さんの目にも耐えられなくなってきたところだし。
 膝上に畳んでいた携帯を、ぱこっと開く。ディスプレイに表示される、ドットの日付。 

「……今日は土曜日」
 
 そして、むなげやの特売日。
 サイタマが利用するスーパーはこの微妙に汚らわしい名前のチェーン店以外にもあるが、チラシを取っているのはここくらいのようだ。
 つまり今日、『進化の家』が彼らの手によって崩壊する可能性は高い。
 ──何を探偵ぶっているのか、と思われそうだ。実際、俺自身が一番そう感じている。
 携帯をしまい、大きく伸びをする。

「一旦、帰るか……」

 数日顔を合わせないなんてことはざらにあったので、サイタマは別に怪しんではいないはずだけれど。
 とはいえ、来週の土曜日まで会わないという選択肢はない。逆に怪しまれそうだ。













 ぼんやりと街中を歩く。
 喧騒が、どこか遠い。
 俺だけ世界に取り残されているような、そんな錯覚。いや、それは確かなのだろう。

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