ハーメルン
うっかり怪人♀になってしまったっぽいが、ワンパンされたくないので全力で媚びに行きます。
刹那のモーメント
目立たないようビルを足場代わりに、ようやくアパート前に戻ってきたサイタマは開口一番。
「うわ」
何を見てそう口に出したか、考えるまでもなかった。
道端で燃え盛る炎、それを感情のない目で見つめるサイボーグの青年──ジェノス。無事に、とは言いたくないが、一足先に戻れていたらしい。
こちらとしても路上キャンプファイヤーがいきなり視界に入ってうわ、だった。
──結局あの後、俺のペースに合わせていると永遠にZ市へ辿り着けない、ということで。
林を出た後も、ここまでサイタマにおぶられたままだった訳だが。さすが宇宙最強の男、今に至るまで全く体幹にブレがない。
まあそんな恥ずかしい瑣末事は置いておいて、ジェノスのほうだ。
「サイタマ先生!」
師を認めるなり、きりっとした顔でこちらに駆け寄ってくる見事な忠犬仕草。しかし、犬は犬でもこいつはバグったaiboだ。
当然、サイタマは良い顔をしない。まさか彼も、この男に桃源団討伐をストーキングで監視されていたなどとは思わないだろう。
「お、お前またいんのかよ……」
「弟子ですので」
「取った覚えねーよ、帰れよ他人なんだから」
というか、俺についてはガン無視かい。
尾行隠蔽のために無視している場合でも、単に存在が視界に入らない場合でも、どちらにせよ好感度は上がらないパターンなのだが。
サイタマはジェノスから、アスファルトの上で逞しく燃え上がる炎に視線を移し。
「で……何してんの?」
同時に、再び俺の頭に戻ってくる帽子。鍔が引っ張られて視界が遮られる。サイタマに行ったり俺に戻ってきたり、お前も忙しいな。
「怪人の死骸がアパート前に溜まってきていたようだったので、まとめて焼却をと」
「それはいいんだけど……セツナが火とか嫌いだから、できればうちの近くでやるなよ」
帽子はサイタマなりの配慮だったらしい。
これに関しては全くの善意でやってくれているのだろうから、少し申し訳ない気もする。
「……何か燃えてるのを見るのがあんまり好きじゃないだけ」
首に回していた手を少し振って、鎮火。残った燃えカスは凍らせて、砕く。
炎を見て気分が悪くなったとはいえ、サイタマが運搬してくれていたおかげで、少し力を使うくらいの余裕は戻っていた。
「死体ならわたしが片付けるから」
ジェノスはノーコメント。不満気な様子はないが、だからといって安心はできない。
そこへ割って入ってくるサイタマ。
「とにかく。今の俺は重大な問題に気づいて非常にショックを受けてんだよ。傷心なの」
傷心の男は女をおぶって帰ってきたりなどしないような気もする。
が、世界の全てがサイタマを中心に回っているジェノスは今度こそ神妙な顔で、
「問題……? 先生ほどの人が抱える問題とは何ですか? 教えてください」
「…………知名度が低い」
いや、できるからって俺を背負ったまま会話をすな。買い物袋じゃないんだぞ。
「知名度……」
「今日なんか……今日なんかなあ……テロリストに間違われた挙げ句『お前なんか知らん』だとよ。ハンマーヘッドは俺が倒したのに。いや桃源団に限った話じゃねえ、こんだけ活躍してるのに誰も俺のことなんか覚えちゃいない……!」
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