ハーメルン
うっかり怪人♀になってしまったっぽいが、ワンパンされたくないので全力で媚びに行きます。
ライト、レフト、そしてアイス
サイタマと同じアパートに移り住んで、2週間。
彼の言う通り、鍵が開いたまま、下手をすると家具がそのままで放置されている部屋(持ち主死んでるんじゃないのか)はいくつかあった。
その中で、彼と同じ階の、1つ部屋を挟んだところが空いていたので、そこを間借りすることに。
ぎりぎりお隣さんではないが、冷気漏れが怖いので、これで全く構わない。
部屋の内装的に、働いている男性の一人暮らしだったのではないかと思う。
細々としたものは持ち出されているようだが、ベッドやソファはそのまま残っていた。
まあ、寝るところがあればいい。こちとら公園のベンチで爆睡できる怪人やぞ。
「……ふう。大体、片付いたか」
2週間経った。
ようやく、片付けが一区切りついた。
いつからいなかったのか廃墟のような有様だったので、できる限り掃除に専念していても、結構な時間がかかってしまった感じがする。
「っ、あー、外の空気吸いてえ」
ベランダに出ても良かったのだが、そちらはまだ掃除が済んでいない。
換気のために掃き出し窓は開けつつ、部屋の外に出ることにした。
スチール製の扉を開けた先は、今日も良い天気。そして静かだ。
ゴムで雑に上げていた髪を下ろして、頭を軽く振る。髪を縛るのもだんだん上手くなってきたような気がする。
廊下を進んで角を曲がろうとしたところで、
「お」「あ」
ちょうど階段を上がってきたサイタマと、バッティングした。Tシャツ姿に手ぶらなので、ゴミ捨ての帰りか何かだろうか。
「……よ、セツナ」
先に反応したのは、サイタマのほうだった。
片手を軽く挙げて挨拶してくる。
「サイタマさ、……さ、サイタマ」
やべ。
敬語やめろって言われてたんだった。
引っ越して早々、「もう敬語使わなくていいだろ(?)」という謎の理屈でそれ以降のタメ口を強要されているのだが、これがなかなか大変。
『敬語で喋る清楚な女』というプログラムを、基本の性格はそのままに『タメ口だが清楚な女』へアップデートせねばならないのだから。
「おはようござ、ま、……ぁ、」
またやった。
サイタマが芝居がかって片眉を跳ね上げる。
「すみませ、……ごめん、」
焦るとなおさらダメだな。
こわごわ彼の顔色を窺ったが、微笑ましそうな呆れ顔をしているだけだった。
「なかなか慣れねーな」
「うーん……」
苦笑で受け流す。
慣れるも何もこっちはシンプルに無茶振りされてんだよな。役者じゃねえんだぞ。
「お、男の人と、今までこんなに仲良くなったことがなくて……」
嘘とも事実とも言えないセリフで誤魔化す。
実際“セツナ”の容姿は、彼氏いたことあるし全然非処女です、と言われても納得いくものだが。いや悪口とかではないです。
「ま、いいけどな。元気か?」
「元気だよ」
「よし」
何が「よし」なのか定かでないが、サイタマはどこか満足そうだ。
そのまま立ち話に移行する──と思いきや。
「じゃーな。気ぃつけろよ」
あ。
サイタマは自然に俺の隣をすり抜けて。
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