ハーメルン
非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか?
心の手折り方
――――時間は少しだけ遡る。
公園で休憩を取ってからそれほど時間も経っていない頃。
突如として現れた警察官達に問答無用で補導される前、私は轢き逃げを起こした犯人に遭遇した。
見るからに遊んでいる大学生と言った風貌で、公園の近くでビラを配っていた私に対して気持ちの悪い下心を内心に抱いて近付いてきたのがきっかけだった。
「ねえ、君大変そうだね。お兄さんも手伝ってあげようか」
「……」
ニコニコと、一見すれば悪意を感じさせない笑顔を浮かべ、良くできた甘い仮面の下ではドロドロに蠢く欲望を滾らせて。
私が配っているビラに書かれている、自分の犯した事故のことなど記憶にも残っていないのか、警戒1つせずに私に寄ってきて声を掛けてきた。
ようやく親の軟禁から解放された、あんな奴ら轢いたところでなんで俺がこんな窮屈な想いをしなくちゃいけないんだ、なんて。
そんなことを考えていた男が私に寄ってきた時、正直言えば私は驚いていた。
犯人が近くを通ったとしても、自身が犯人の事故のビラ配りになんて近付かないのが普通なのだから。
目撃者や被害者家族にでも会えればと思って始めた活動で、まさか犯人から近づいてくるなんて安易な予想はしてもいなかった。
(うわぁ、きもっ……とはいえ、情報源としてはこれ以上ないし、ある程度情報を搾り取らないと。まずは、コイツの理想を演じるために思考を読み取って……“お淑やかで気弱な少女”……わ、分からない)
「あはは、警戒させちゃったかな? ごめんねいきなり声を掛けて、とっても可愛い子が頑張って声を出しているのが見えて気になっちゃって。」
「えっと……あの、可愛いなんて……ありがとうございます。でも、どうしても情報が欲しくて……」
「ふうん、そんなにそのビラが大切なんだね。偉いなぁ。両親に頼まれたのかな? 長い時間ここら辺で配っていたから疲れたろう? お兄さん結構お金持ちだからお金は出すよ、近くのカフェで少し休まないかい?」
言葉巧みに人をかどわかし2人だけになれる場所に連れ込もうとする、典型的な下半身で物を考えるタイプの男。
実際、甘いマスクをしてお洒落にも気を遣ってそうなこの男の外面だけしか見なければ、まんまと着いていってしまう人もいるのだろう。
それくらい、この男の雰囲気は女慣れしている。
「カフェ、ですか? い、いえ、見ず知らずの方にお金を使わせる訳には……それに、まだ全然ビラも配り終えていませんし……」
「そうかな? 自分の体にも気を遣って、適度に休みを入れた方が良いと思うけどなぁ」
「とっても、ありがたいんですけど。私、明日から学校ですし、今日中にこれを配っちゃわないとで……」
…………お淑やかってこんな感じで良いのだろうか?
正直、こんな奴の理想に合わせるのは業腹ではあるから、少し違っても良いかと言う投げやりな気持ちもある。
で、私の猫かぶりはどうやらこの男に効果抜群のようで、さらに男の目は欲望に滾り、ぐいぐいと誘いを入れてくる。
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