ハーメルン
非科学的な犯罪事件を解決するために必要なものは何ですか?
無能な采配
この日もまた氷室署は忙しない一日を迎えている中で、神楽坂は自分のデスクに張り付け状態になっていた。
山のように折り重なった仕事が机に鎮座しており、今日は昼休憩すら挟めていないほどに休む暇も無かった。
しかし、別に神楽坂一人がこんな目に遭っている訳ではない。
「せんぱーい、こっちの仕事終わりましたので確認お願いします☆」
「はいはい……ちょっと待ってろ。この書類に区切りをつける」
「お願いします! あ、じゃあ私は飲み物でも入れてきますね☆」
後輩である飛鳥のふざけた口調とは裏腹の気配りに、神楽坂は張りつめていた集中力を一度途切れさせ、凝り切っていた肩を回し一息入れる。
朝からずっと休憩もなく作業をしていたが、まだ全体の半分も終わっていないことに頭が痛くなった。
(……まあ、単純な事務処理作業ばかりなんだがな)
神楽坂上矢はあの超常現象の関わる事件を目の当たりにしたものの、特に普段と変わりない非常に忙しない毎日を送っていた。
警察官僚の隠蔽工作による責任追及や真実を公とした神楽坂をどうこうしようとする動きはほとんど見られないまま、氷室警察署内は普段の業務に戻っている。
人のいない、ガラリとした課の中で、課長と神楽坂と飛鳥の3人だけが淡々と事務作業をこなしている。
これは別に彼自身が何か重大事件の担当を任された訳でもなければ、今一緒に業務をしている飛鳥の指導担当となった訳でもない。
原因はただ一つ、神楽坂達以外のほとんどの氷室署の警察官は連続して発生しているとある凄惨な事件を追って、緊急で対応に当たっているからだ。
一週間前に発生した『氷室区無差別連続殺人及び死体損壊事件』――――一連の遺体が原型を留めていないことから警察署内では犯人を『壊し屋』と呼称した。
先日まで起きていた誘拐事件とは異なる、完全な殺人事件。
この新たな火種が今、世間を大きく騒がせているのだ。
神楽坂と燐香が遭遇したひったくり犯の惨殺現場。
あの事態を皮切りに、氷室区内では裏路地に入った人間が凄惨な死を迎えると言う事件が連続している。
悪質性や凶悪性を考慮した警察庁が公安を派遣するとともに、信頼が低落した自分達の風評を改善するためにも早期事件解決の指示を出し、それに応じた氷室署が全戦力を用いて事件対応に当たっていた。
つまり今は氷室署の事件解決能力を有する部署はほとんど出張っており、それ以外の業務はおのずとその事件に関わっていない人達で持つことになった訳だ。
世間による警察組織の責任追及が過熱しきらなかったのもこの事件があったからだ。
報道やネット上では、日本で起きている凄惨な連続殺人事件の話題で持ち切りになっていた。
(助かったとは口が裂けても言えないが……)
特別に配布された『連続殺人事件』に関する資料に視線を落とし、そのあまりの凄惨さに顔が歪む。
こんな凄惨かつ凶悪な事件でも、独断専行の多い神楽坂を前線には出したくなかったのだろう。
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