ハーメルン
勝てなきゃ走る意味が無いと、俺はハルウララに言った
ハルウララの回顧
わたしとトレーナーが出会ったのは、4月も終わりかける頃の夕暮れだった。わたしはとっても困っていた。
トレセン学園に入学したウマ娘はレースに出るために日本中からやってくる。そしてレースに出場するのにはトレーナーさんとコンビを組んでいなきゃいけない。
わたしはよく分かっていなかったから、同じように入学したばかりでいろんな募集に応募する子たちについて行って、選考に参加してみたりした。
選考はそれぞれ10人くらいから、多くて5人くらいが選ばれる。トレーナーさんにだって面倒を見られる限界があるからだ。だから何回か選考を受けたら大概はどのトレーナーかがウマ娘を見てくれる。
けどわたしは上手くいかなかった。ちょっと走ってみると大体わたしはドベッケツで、選んでもらえなかった。トレーナーさんはきっといい人が見つかるよって、背中を押してくれて、他のトレーナーを紹介してもらえたりして、わたしは何人ものトレーナーに走りを見てもらった。
けれど、なかなかわたしの面倒を見ることに名乗りを上げてくれるトレーナーさんは現れなかった。
そんなこんなを繰り返して、もう1カ月。周りの子はトレーナーなんかとっくに決まっていて、早い子は目標のレース目指してトレーニングを頑張っていた。
さすがのわたしも、これが良くない状況だということは察していた。でもトレーナーさんのほとんどは、もう担当の子が決まっていて、これ以上面倒を見るのは難しいと言われた。
いっぱい考えてみたけど、良い考えは浮かばなくて。とりあえず何もしないよりずっと良いと思って、いっぱい走ることにした。
走るのはすっごく楽しい。歩くのとは違って、風を切って目に映る景色が流れていくと、気持ちが高揚する。ずっと走っていたい。走るのが楽しい。そう思ったから、わたしはトレセン学園に来たんだ。
走っていると、どこかのトレーナーに教えられながら走る子たちの集団に会った。みんなトレーナーさんに走り方を見てもらって、ああしたら良い、こうしたら早くなるとか教わって、わたしよりもずっと速く走って、わたしを追い抜いていった。
少し走って、疲れたからコースを外れて隅っこに背中を預けて、体育座りに座り込む。
遠くではみんな走っている。気持ちよさそうに風を切って走る様はとってもカッコイイ。
わたしもあんな風に走ってみたい。けどそれにはきっとトレーナーさんが必要なんだと、なんとなく分かった。
でも困った。もうトレーナーさんはいないかもしれない。
「うえーん、どうしよう! トレーナーが見つかんないよー」
伸びをして、そんなことを言ってみる。
言っても解決しないことはわたしが一番よく分かっている。でも、きっと、頑張って探したら、わたしを見てくれるトレーナーさんに会えるよね?
そんな悠長なことを考えていたら、いつの間にか誰かが立っていた。
よれよれの黒いスーツを着て、元気がなさそうなその人は、座り込んだわたしを見ていた。
「……まだトレーナーが見つかっていないのか?」
少し間があってその人はわたしに質問した。聞いて良いのか悩むような様子だった。
「そうなの! いっぱい探してみたけど、まだ見つかってないんだーっ!」
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