ハーメルン
DESIGNED LIFE
第1話 由比ヶ浜にて

 小高い砂丘の天辺から南を一望すると、果ての見えないスカイブルーに柔らかな陽光が照り返していた。
 砂浜にも海の上にも人は居ない。ただ時折、海水より淡い色をした大空に、海鳥が連れたって飛んでゆくのが目に入る。

「んっ」

 色素の薄い金色のポニーテールを揺らし、小柄な少女は瞳を細めた。いくら日射しが弱いとはいえ、ずっと見ていれば目に悪い。
 少女、安藤鶴紗(あんどうたづさ)は踵を返して砂の丘から下りていく。背には、持ち主の身長にも迫ろうかという大きな直方体のケースが背負われていた。
 そうして下りた先で鶴紗を出迎えたのは、緑のセミショートを左右で小さく纏めた少女だ。鶴紗より頭半分ほど背が高く一つだけ年長の彼女だが、年長者らしからぬ緩い空気を纏っている。

「鶴紗ー、何か面白いものあったかー?」
「何も。少し前に貨物船が二隻、西へ通り過ぎただけ」
「西か。横須賀発、大磯行きってところだな」

 さも興味なさげな様子の先輩の名は、吉村(よしむら)Thi(てぃ)(まい)
 鶴紗も梅も黒を基調としたシックな制服に身を包んでいる。この制服こそ鎌倉で、ひいては世界で名を馳せる名門ガーデン百合ヶ丘女学院に属する証。ガーデンとは、人類の敵ヒュージと戦うリリィを育てる軍事養成機関のこと。外見からは想像し難いが、二人の少女は戦う人なのだ。

「何もないな~。うん、今日は何もない日に違いない」
「梅様やる気なさすぎ」
「そうは言うけど、梅たちが出番ないってことは良いことなんだゾ」
「サボれるから?」
「それもある」

 先輩のあんまりな発言に鶴紗は口を尖らせる。
 しかし同時に、無理もないことだと思っていた。確かに今は()()()()()()()平和と言える。
 大磯海底ネストに続き、由比ヶ浜ネストの撃破。近傍の敵拠点消滅により、ここ鎌倉に面する相模湾の制海権は過半が人類側へと帰していた。近場の横須賀に海上防衛軍の有力な根拠地が存在することもあり、遊覧船や客船は無理でも、高速貨物船程度なら往来可能となっている。

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