ハーメルン
DESIGNED LIFE
第10話 横須賀基地観艦式(中編)

「この五十年、長きに渡るヒュージとの戦いにおいて、君たち防衛軍にとって楽な状況になったことはただの一度もなかった。厳しい戦況の中、戦友が命を落とすその横で、非難とか誹謗ばかりの日々だったかもしれない。ご苦労なことだと思う。だが国家と国民の未来は、間違いなく君たちの双肩にもかかっている。たとえ日陰者の誹りを受けようとも、君たちの常日頃からの戦いが確かに命を救っているのだと、どうか忘れないで欲しい」










 内閣総理大臣からの訓示を挟み、横須賀基地観艦式は予定通り実施された。
 本来なら相模湾まで出向くところを、東京湾・浦賀水道内でとどめて時間を短縮。また参加艦艇も、海上防衛軍から二十隻と在横須賀米海軍から二隻の合わせて二十二隻という小所帯。
 昼前には全ての艦艇が横須賀へと帰港していた。
 しかし本番はまだまだこれから。基地祭での警備こそがリリィたちにとっての本当の任務なのだから。
 横須賀基地東側の埠頭、係船岸壁の一角で一柳隊のリリィたちが歩哨に立っている。

「こんなご時世に、こんなに人が集まるなんて」
「こんなご時世だからだゾ」

 海を背にして基地内を見渡した鶴紗が驚きをもって呟くと、隣の梅がすぐに反応した。

「幾らヒュージが怖いからって、いつも隠れてジッとしてるだけじゃ息が詰まるだろ? だからたまにはこうして、人も物もお金も動かさないと」
「まあ、それは分かりますけど」
「観艦式はそのついでだなー」
「そっちがついでなのか……」

 基地内では防衛軍の艦船や武装の展示の他、たくさんの出店が並んで活況を呈している。
 横須賀市内は勿論、市外からも集まって来たであろう人、人、人。老若男女に家族連れ。ヒュージとの戦時下を忘れさせるには十分な光景だった。

「梨璃ー、海ばかり見てもつまんない!」
「もうちょっと待ってね結梨ちゃん。もうすぐ交代の時間だからねー」

 少し離れた所では、梨璃が駄々っ子をあやすかのように結梨の相手を務めている。

「あははー。お母さんは大変だなあ。早くお父さん連れてこないと」
「そっスね」

 カラッとした笑みで一柳母娘を見守る梅。
 そんな彼女に、鶴紗はホッとしたよな残念なような複雑な思いを抱く。つい最近、鎌倉の街であんなことがあったばかりなのに、鶴紗に対して変わらない態度で接してきたからだ。
 とは言え、それが鶴紗にとって不快なわけではない。むしろ心地好い。だから余計に複雑だった。

「よーし、それじゃあ結梨。ちょっと早いけど一緒に出店へ行ってみるか」
「行くー!」

 梅の提案に、結梨は諸手を挙げて喜ぶ。

「梅様、交代はまだですよ!」
「大丈夫だって~。ほら梨璃、あっち。夢結たちがこっちに来てるだろ」
「……本当だ。よく気付きましたね」
「というわけで、結梨をちょこっと借りてくゾー」
「あっ、引継ぎはお姉様たちとすれ違う時にしておいてくださいね!」

 そう宣言した次の瞬間には、梅の手は結梨の手を掴んで引っ張っていた。
 しかし、やたら目の良い梨璃はともかく、梅もよく気が付いたものだ。鶴紗が詰所のある方を向いても、人影が米粒程度にしか見えないというのに。

「よーし。結梨、まずはこういう時の定番の金魚すくいから教えてやろう」

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