第15話 新生一柳隊
百合ヶ丘女学院を始めとしたガーデンは軍事養成機関であると共に、生徒に教育を施す学び舎でもある。校舎には講義室の他、予習復習に勤しむ者のために自習室が備わっていた。そこではマギやチャームやヒュージ関係の分野は勿論のこと、一般学問分野に四苦八苦するリリィの姿が多々見られる。
自慢ではないが、鶴紗はそこそこ勉強ができる方だ。
しかしながら、そこそこでは難儀するのがお嬢様学校たる百合ヶ丘。本日の講義終了後、自習室の一角を占める一柳隊の中に、頭を悩ます鶴紗の姿があった。
「分からん……」
眉間に皺寄せ、机上の教科書を睨み付けている。
「財政に占める公債と租税の割合の推移とか、何の役に立つんだ……」
レギオンの戦術、あるいはヒュージの特性について問われたらすぐに答えられる鶴紗でも、このような社会公民分野は不得手である。
そんな彼女を隣の席からサポートしているのは、両サイドから艶やかな黒髪を垂らす雨嘉だった。
「えっとね、鶴紗がよく買ってる高い猫缶あるよね? 猫缶の値段の変化にも、財政は関係してくるから」
「……分からん」
おずおずとフォローしようとする雨嘉だが、その努力は実を結ばない。勉強を始めてから何度かこんな展開が繰り広げられていた。
「ううっ、私やっぱり人に教えるの向いてない。こういうのは神琳の方が得意だよ」
「あいつは目つきと手つきが怪しいから、却下」
「そ、そうかな? 普通だと思うけど」
「あばたもえくぼ。雨嘉は騙されてるんだ」
また、鶴紗たちからやや離れた所では、梨璃が悪戦苦闘を強いられている。彼女は鶴紗以上の窮地に立たされており、頭から湯気でも出そうな様子であった。
「梨璃さん、梨璃さーん。大丈夫ですかー?」
「大丈夫じゃないよ二水ちゃん……」
「数学はまあ、仕方がないですねえ。私も文系だから気持ちは分かります」
泣き言を漏らしながら梨璃は必死に式を解いていく。
これでも進捗がある方だった。隣に座る楓から手解きを受けていたから。そうでなければ、梨璃の頭はとうにオーバーヒートしていただろう。
やがて、皆の自習が一段落付いたところで、おもむろに楓が両手をパンパンと叩いて注目を集める。
「皆さん、難敵ばかり相手にしては頭が煮詰まってしまいますわ。ここらで科目を変えてはいかが?」
楓の提案に、二水が真っ先に食いつく。
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