ハーメルン
黄金船の長い旅路 或いは悲劇の先を幸せにしたい少女の頑張り
アグネスタキオンの日常

チームスピカに入って、アグネスタキオンの実験は飛躍的に進み始めた。
今までの実験のモルモットは概ね自分、時々カフェ、ぐらいだった。
カフェに薬を飲んでもらうといっても、基本的に嫌がるので大変だった。
カフェはコーヒー狂いなので、タキオンは自分で自家焙煎したコーヒーで釣っていたが、短期間にそう何回も釣れるものではない。

それが今では予算や人員が組まれるようになり、さらに正式な臨床実験なども行われるようになった。

かつてタキオンは何を飲ませているか一切説明をしなかった。時間がもったいないと思ったからだ。
しかしゴールドシップが分かりやすい説明文を作り、ダイワスカーレットが丁寧に説明をして回ったら、志願者が一気に増えた。

タキオンの研究はウマムスコンドリアの実在と効果を解明することで、より体を丈夫にして怪我をしにくいウマ娘を作るものだ。
彼女は薬といっているが、まだ学生で薬剤師資格もない彼女が使える物は基本食品ばかりだ。
つまり単にクソまずい飲み物や食べ物でしかない。

そしてその効果は疲労回復、骨や筋の発育を促したり修復を促したりするものである。
タキオンの雰囲気と説明不足、モルモットと表現するコミュ障さがマッドな雰囲気を醸し出していたがその内実はなんてことはない。
栄養豊富で体にいい食べ物でしかなかった。クソまずいが。

トレセン学園のウマ娘達は怪我を一番恐れている。
怪我をしにくくなる食べ物、と言われて嫌なウマ娘は一人もいない。
その成分の意味や材料まで公開されると、クソまずいタキオン製のどろどろした「お薬」ではない、美味しいおかずやスイーツも大量に出回り始めた。
学園に所属するウマ娘は料理が得意な子も少なくないのだ。
ゴールドシップとダイワスカーレットの大々的なマーケティングにより、タキオンの評判も怪しいマッドで不真面目なウマ娘、からウマ娘の将来と病弱な自分の体を思いやる真面目なウマ娘、に変化した。タキオン自身は困惑した。

とはいえ、学園内に出回っているレシピは効果が確実になったと確認できたものだけだ。
追従実験としての意味はあり、大事であるが、新しいものはどうしても挑戦的な実験になる。
そんな実験を引き受けるのは、タキオンはお願いしていないにもかかわらず、ゴールドシップとダイワスカーレットの二人だった。



スピカのメンバーがトレーニングをしている。
アグネスタキオンは今日も見学だ。まだ膝の調子が良くない。
ただ、チームトレーニングの様子は毎日見に来ていた。
目の前を走るゴールドシップは目が輝いていた。文字通り、目から凄い光を出して輝いているのだ。まるでサーチライトの様だ。
真昼間の太陽の下なのに、目から光が出ているのが分かるぐらいの凄い光量だった。
ダイワスカーレットはその真っ赤な髪が、真っ赤に発光していた。ついでに拳も真っ赤に発光していた。
全体的に赤い光が出ていて、赤い謎のオーラのように全身を覆っている。スーパーウマ娘とかになってそうな外見だった。
二人とも快調のようで、その足取りはしっかりしていた。

ウオッカはタキオンを見ている。
トレーナーもタキオンを見ている。
トレーナーは約束通り、トレーニングについても、レースプランについても何も口を出さない。
それはありがたかった。

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