サイレンススズカ②
サイレンススズカと出会った翌日。
昼下がりに、自宅のマンションの呼び鈴が鳴った。
戸を開けると、そこには金髪の少女と緑色の事務服を来た大人の女性が並んでいた。
二人ともトレセン学園の関係者だ。
少女の方が秋川理事長で事務員の方が秘書の駿川たづなさんだ。
なんでこの人達が俺の部屋に来る。アポイントなんて取ってなかったはずだ。
「お久しぶりです。いきなり申し訳ありません。少し、お時間よろしいでしょうか?」
「突然ッ!!すまない!!少し折り入って話がある。悪いがこれは────」
理事長は扇子で手のひらをパンと叩いて宣言するように言った。
「強制ッ!!今から君の緊急面談を取り行わせてもらう!」
○
二人をリビングに招いてお茶を出し、挨拶や軽い雑談もそこそこに、早速理事長が本題に入った。
「結論ッ!!から言わせてもらおう!君が内定辞退を考えているという噂を耳にした!真実か否か!?」
心臓が跳ねる。
なるほどサイレンススズカか。
馬鹿か俺は。
なぜ会ったばかりの相手に不要なことまでベラベラと喋った。
「事実です。本当に申し訳ありません」
深く頭を下げる。
理事長こそ表情は変わらなかったが、駿川さんはショックを受けたようで軽く掌で口元を押さえた。
「何故ッ!?かつて神童と呼ばれ、アメリカで最先端のスポーツ医学を学び、修士課程を飛び級で修めた君が!?」
「俺は────」
「矛盾ッ!ウマ娘のトレーナーになることは、君にとっても大きな目標であり、その為の研鑽だった筈だ!」
「はい。ですが俺にはもう────」
「損失ッ!!君がウマ娘のトレーナーを辞するのはこの学園にとって、ひいては業界にとっての大きな損失である!!つまり────」
「あの────」
「再考ッ!!考えを改めて欲しいッ!」
よく喋る人だな。
言い返す隙間が見当たらない。
小柄な体躯に似合わず随分と声が大きい。
いや、興奮するのも当たり前だ。
無茶苦茶言ってるのはこっちの方だ。
「少し早いですが、貴方に支払われる予定の初任給の明細です。ご査収下さい」
駿川さんが手元に差し出した書類には、大卒のそれよりも倍近い基本給が記されていた。いくら中央の給料が高いとはいえ新卒一年目に支払われるような額じゃない。恐らく同期より盛っている。
「更にッ!教務員には無料で社宅を用意してある!光熱費も食費もある程度は負担し!その他福利厚生も手厚い!一流企業並みの待遇を約束しようッ!」
そうだ。
この学園の労働条件は政府が公表するホワイト企業ランキングに乗るレベルの白さだ。それに釣られて就職を希望する者もごまんといる。
だが今の俺にとっては何の魅力もない。
「………大変ありがたいお話ですが、私の考えは…」
「不服ッ!!なら更に出そう!!」
「いえ…お金の問題では…」
それに俺みたいな奴に特別高い報酬が支払われては同期に申し訳が立たない。
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