ハーメルン
アサシン(英霊)なオリ主in名探偵コナン
5 漆黒の追跡者、後編

 目の前で転がるアイリッシュに、私は内心でため息をついていた。
 全身切り傷だらけで出血がスーツを赤く濡らし、骨折したらしい左腕をかばいながらもこちらから目を逸らさない。
  度重なる打撃で変装マスクはすっかり取れてしまい、その特徴的な眉毛の顔立ちがあらわになっている。

 まあ現実的に考えて、サーヴァントの能力を持つ相手に人間が勝てるわけがないよね。
 先手必勝でアイリッシュが打ち込んできた鉛玉は、アサシン・佐々木小次郎の愛刀物干し竿で丁寧に細切れにした。
 この刀自体はいたって普通の刀なので、斬鉄の際にはいたわりを込めて強化魔術を施している。
 強化魔術というのも単純だが侮れない。
 ただの丸めたポスターでゲイボルク(真名解放はしない)を防げるのだから、その性能は折り紙付きだ。魔術に関しては三流である衛宮士郎でこれなのだから、セミラミスとして最高峰の魔術が使える私にとっては刀の強化など児戯にも等しい。

 数発の銃弾を粉塵に変えて無力化し、そのまま肉薄。
  死なない程度になます切りにしてから極々軽い蹴りを一発。
それだけでアイリッシュはゴム毬のように床を跳ねて柱にぶつかることになった。

 基礎スペックが違いすぎるので、戦闘というより蹂躙だ。
 これだから直接戦闘は嫌なんだよ。無双ゲームなんて飽き飽きだ。単純で分かりやすいのはいいことだが、美しさというものが全く持って不足している。
 暗殺とは芸術だ。
 蛇のようにしなやかに、蜘蛛のようにひっそりと、濡れる吐息のように情熱的で、夜の褥のように安らかに。鴉のごとき狡猾さで標的に近づき、溺れるように命を奪う。
 一分の隙も無い美こそが、本当の暗殺であり私の目指すところでもある。

 身を起こしたアイリッシュは力の違いを感じたのか、口の中にたまった血を吐きだして悪態をついた。

「……ガ、ァ、……この化け物め」
「反応が鈍い、行動が遅い、技量が足りない。だが、初手で正確に脳幹を狙えたのは評価できる。クイックドロウを磨けば多少マシになる」
「はっ、そのマシってのは次元大介か?ビリー・ザ・キッドか?」
「次元大介やビリー・ザ・キッドはトリガーの重いDAリボルバーを用いてもあの速度を出している。あなたは無理をせずSAリボルバーを用いて訓練をすべきだ。DAではいくら磨いたとしてあなたでは使い物にはならないだろう」
「……次ってやつがあるのなら参考にするぜ」

 見たところアイリッシュには射撃の才能がありそうだ。
 次元大介とまではいかなくとも、適切な銃を用いればそこそこいいところに行くのではないだろうか。
 逆に体術はダメだ。恵まれた体格の癖にどうにも動きが悪い。耐久力はあるようだが、これではともすれば毛利蘭さんにも負けてしまうぞ。

 そんな風にアイリッシュの戦闘能力を測りながら、私は右手に持った刀をゆっくりと持ち上げた。
 戯れもここまでとしよう。
 依頼が前金しか受け取れないのは残念だが、江戸川少年の正体を知ってしまった以上生かして返す意味もない。
 原作沿いだってそう悪いことじゃあないだろう。死ぬ運命にあった人間が死ぬだけだ。世はすべてこともなし。

 次に起こることが予見できたのか、背後で小さく息をのむ音がする。
 後ろにいるため表情はうかがえないが、おそらくは追い詰められた顔をしていることだろう。

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