11 天空の難破船──A
7日前、国立東都微生物研究所にて爆破事件が起こった。
ネット上で犯行声明も発表され、連日ニュースは「赤いシャムネコ」一色だ。
なんでも、研究所から盗まれたのは危険な殺人ウイルスと呼ばれるもので、これを使ったバイオテロが起こる可能性が高いらしい。
東都の人が集まる繁華街や大型ショッピングモールは警戒態勢、コンサートなどのイベントは厳重警備となっている。一部では延期となったものもあるらしい。
ここまで聞けばお分かりだろうが、天空の難破船そのものである。
劇場版の……何作目だっただろうか。シャムネコを名乗る仏像の窃盗集団だったことは覚えている。
ここまでやっておいて行きつく先は窃盗か、と落胆しないでもなかったが、本当にテロられても深刻過ぎるので映画としてはちょうどよい塩梅だったのだろう。
見どころは江戸川少年の「素直に白状しないと、これの中身をかけちゃうよ?」というブラックな脅迫セリフだ。
致死率80%越えの危険なウイルスが入っているとされているアンプルを持ってそんなことを言うのだ。流石は江戸川様と言わざるを得ない。
ともかく、私はそんな次なる活躍の場が迫っているのを感じ、わくわくとしながらそのときを待ってい…………た、のは、ついさっきまでのことだ。
こいつはヤベェ。
飛行船内に設けられた喫煙室の中で、私は予想外の事態に途方に暮れていた。
品のいいクラシックな柄の壁紙に、高級ブランドの皮張りソファ。
上には最新の換気設備が整っており、喫煙室にしてはそこまで臭いもきつくない。
現在、私は鈴木財閥が製造に関わった最新の硬式飛行船に乗っている。
KIDとの対決を今日にひかえ、次郎吉さんとKIDの対決を見届けるための観客としてのお呼ばれだ。
向こうとしては少年探偵団に新たに加わった小娘A、くらいの気持ちだろう。
園子さんも「またガキンチョが増えたわねー、感謝しなさいよ!」と語っていた。
私は小さくしゃがんで喫煙室に設置されたソファの下をのぞいた。
ソファの下に転がされた空のアンプルはまだ液体が付着したままだ。
それを拾い上げ、もう一度「医術:A」を用いて解析する。
「ハサンちゃん、そんなところでどうかしたんですか?」
「安室透か」
開けっ放しだった喫煙室のドアから安室さんが入ってきた。
名探偵である眠りの小五郎と怪盗KIDの対決をぜひとも拝見させていただきたい、というのが表向きの安室さんの同行理由である。
毛利のおじさんの弟子ということもあり、鈴木次郎吉さんは快く快諾してくれたらしい。
安室さんがたいそうなイケメンだということもプラスしたはずだ。園子さん的に。
いつ誰が来るともしれないこともあり、安室さんは穏やかな人好きのする笑顔でこちらに話しかけてきた。
彼の醸し出す雰囲気と意味ありげな視線を加味して考えれば、二人っきりだと確認が取れた時点でバーボンに切り替わるはずだ。
東都タワーでの出来事以来、彼とは会っていない。公安からの情報を得ている考えれば、彼が私とサシで話がしたいと思っていることは明らかだ。
そして喫煙室は内緒話には最適である。
それを狙ってこの部屋に入ってきたのだろうが……最悪の一手だったな。
安室がゆっくりと喫煙室の扉を閉める。
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