12 天空の難破船──B
ぴくり、と脳の後ろ側が警告を鳴らした。
「バーボン、飛行船に侵入者を感じた。数は7、男性、全員が短機関銃を所持、実戦経験のある軍人に類するものだと判断する」
「……飛行船内に盗聴器でも仕掛けていたんですか?」
「そのようなものだと考えればよい」
実際は周囲の地形構造をわが身の物として完全に知覚する宝具、「瞑想神経」の効果によるものである。
ヘリコプターでもって飛行機に乗り込んでくることは分かっていたため、前もって発動しておいたのだ。
「幻想血統」を経由しての発動であるため少々使いづらいが、屋内戦においてこれほど有利に事が運べる宝具というのもあまりないだろう。
察知した情報をバーボンに端的に伝え、目線で次の行動を問いかける。
バーボンは一瞬獰猛そうな笑みを浮かべたが、すぐにその表情を引っ込めて後方に目をやった。
「この状況で僕たちだけ部屋を出る、というのは難しいでしょうね。一等室は室内トイレがありますから抜け出す口実もありませんし。それにただでさえ彼らは不安で気が立っている」
感染した可能性の高い乗客を集めたここ一等客室は、現在ルポライターの藤岡隆道、日売テレビディレクターの水川正輝、それと……自己紹介を聞いていないため名前は分からないが、飛行船のウェイトレスの女性が一人。
皆不安そうにイスやベッドに腰掛け、所在なさげにあたりを見回している。
不安は無理からぬことだろう。
10年前の財閥を狙ったテロの特集から、今回持ち出された凶悪なウイルスが引き起こす症状まで連日テレビはシャムネコ一色だった。
繰り返し放送された「ウイルスの凶悪性」とやらが彼らの脳内で駆け回っているはずだ。
ごほ、とウェイトレスの女性が小さく咳をした。
「っ、お、おい! まさか……」
「違います! 単に空気がのどに絡んだだけで、別に感染なんかじゃ」
立ち上がって距離をとる水川さんと、その様子に必死に弁明するウェイトレス。
雰囲気は最悪に近い。感染を恐れて疑心暗鬼になっているようだ。
この状況で私たちが何もせず出ていこうとすればわめきたてられることは間違いない。
あと、私の「医術:A」によると彼女はすでに発症しているようだ。あと一時間もすれば頭蓋を割られるような痛みが襲ってくることだろう。
苦虫をかみつぶしたような顔をするバーボンに、私は息をついて立ちあがった。
「落ち着いてこちらを注目してほしい」
「な、なんだ、君もまさか発病の兆候がどうとかいうんじゃないだろうな!」
「否。よく見て、よく聞いてほしい」
右手を小さく上げる。指の動きに魔術的な意味を込め、僅かな魔力が室内に揺れる。
「私と安室透はこれよりこの部屋から出る。あなたたちにその理由を説明することはできない。しかし、それは何らおかしいことではない。私たちがこの部屋に戻ってきても戻ってこなくても、不審に思うことはない。何の心配もいらないことだ」
バーボンが私の後ろで咎めるような目線を送って来た。
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