ハーメルン
春を導くは偉大な赤いアイツ
偉大な赤いアイツ、春の師匠となる

「セクレタリアト!? どうして!?」

「マジでか!?」

「え、本当に!?」

 突如コースに現れたアメリカ三冠ウマ娘であるセクレタリアトの姿にその場に居た全ての者達が驚き、ざわざわと群衆がにわかに騒ぎ始める。

「セクレタリアトさぁ〜ん!! 急に走り出さないでください〜!!」

 ざわめく群衆を掻き分けて、学園の案内をしていたたづなとクリストファーがコースに居るセクレタリアトへ駆け寄ってきた。

【……おい、セク。急に駆け出してどうし───いや、そういうことか】

【おう。間違いねぇ】

 セクレタリアトが急に走り出した理由をクリストファーは尋ねようとしたが、セクレタリアトがその手で支えているハルウララの姿を一目見てすぐに状況を理解した。

「駿川さん、保健室ってどこにありますか?」

「はぁ……はぁ……ほ、保健室ですか?」

 急に何で保健室の話が出てきたのか分からず、たづなは一瞬困惑したがセクレタリアトが抱えるハルウララの様子が普通ではないことにすぐに気付く。

 走った後とはいえ一向に収まる気配の無い荒い呼吸に、茹で上がったかのように赤く染まった顔、汗が噴き出し続けとても苦しそうな表情を浮かべている。

 明らかに普通ではない。ハルウララに何かトラブルが起きていた。

「恐らく熱発です。意識はかろうじてありますが、状態が酷い。これ以上悪化させる前に休ませるべきです」

 セクレタリアトはそう言いつつ、ハルウララの身体を大事に取り扱いながら背負う。

「私が運びます。保健室への案内はお願いします」

「わ、分かりました! こちらです!」

 事態が一刻を争うことを理解したたづなは慌てて保健室に向かって先導し、セクレタリアトとクリストファーもそれに続いてコースの外へと去って行く。

 その様子を人々は呆然と見送るしかなかった。

「……あれがセクレタリアトか」

 コースから立ち去ったセクレタリアト達の姿が見えなくなった頃になって、ようやく落ち着きを取り戻した群衆の内の1人であるシンボリルドルフはポツリと呟く。

 初めてその目で見たアメリカの三冠ウマ娘。同じ三冠という称号を持つシンボリルドルフであっても、正直に言って垣間見えたセクレタリアトの力量は化け物と言えた。

(これだけの人数が居る中で誰にも気付かれることなく、コース外から中央のダートコースまで駆け抜ける……言葉にするだけでも荒唐無稽すぎるな)

 もし同じことをやれと言われても、シンボリルドルフは出来ないと首を横に振るだろう。

 普通に考えてそんなことは不可能なのだ。どれだけ頑張っても限界というのは存在する物なのだから。

 故にこそ、その限界を軽く超えて不可能を可能にしたセクレタリアトの実力は到底一目見ただけでは推し量ることが出来ない程であった。

 ただ、一つだけ言えることがあるとすれば。

「悔しいが、今のままでは……」

 そうやってシンボリルドルフが密かに考えを巡らせていると、不意にダートコースの方から怒声が鳴り響いた。

「おい、スズカ! 何で体調不良のウマ娘を走らせた!?」

「ごめんなさい……どうしても走りたいって言うから、つい走らせてしまいました……」

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