偉大な赤いアイツ、不屈の王を落とす
キングヘイローがそのことを伝えられたのはトレーナーとの毎日のトレーニングが終わり寮へと帰ってきた後のことだった。
「キングヘイロー。実はハルウララが今日の放課後にあったリギルの選抜模擬レースの最中に熱発を起こしてしまってね。症状としては軽い風邪のようだが、移ったら大変だ。そこで、突然ではあるが暫く君とハルウララで部屋を分けようと思うんだが……あ、おい!」
寮長のフジキセキからハルウララのことを聞かされて、キングヘイローは話の途中だというのにその場から駆け出した。
向かう先は勿論自分の部屋だ。
(なんてこと……私としたことが……!)
彼女の胸の中で後悔と自責の念が渦巻く。実を言うとキングヘイローはハルウララが熱発を起こしていることについては気付けていなかったが、朝から何か調子がおかしいことには気付いていたのだ。
(いつもなら、いつの間にか私のベッドに潜り込んで寝ているウララさんが今日に限っては自分のベッドで寝ていた。この時点でもうおかしかったのよ……!)
甘えん坊で小さな子供をそのまま身体だけ大きくしたような性格のハルウララは同室ということもあってキングヘイローに常日頃からよく甘えてくる。
例えば同じベッドで一緒に寝たり、ご飯を食べる時は好きなおかずをおねだりしてきたり、勉強してる最中に抱き着いてきたりと、事ある毎にハルウララはキングヘイローに構って欲しいアピールをしてくるのだ。
それが嫌かと聞かれれば、キングヘイロー本人の面倒見のいい性格やハルウララの天真爛漫な姿もあって実のところはそこまで嫌っていないのだが、恥ずかしいのでキングヘイローは決してそのことを口には出さないようにしている。
それはともかくとして、あの甘えたがりのハルウララが今日に限っては朝から甘えてこず、起きてもどこかボーッと意識が薄れていた感じがしていたのをキングヘイローは思い出した。
変だなとは思いつつ、寝ぼけているだけだと考えたキングヘイローはそのまま朝のトレーニングに向かってしまったのだが、この時点で違和感は感じていたのだ。
その違和感をもっと強く突き詰めていればハルウララに苦しい思いをさせることは無かった。つまり、これはハルウララの異常を見逃したキングヘイローにも責任があると彼女自身はそう思っていた。
他人の体調なんてそう簡単に分かるはずが無いのだから、ハルウララが熱発を起こしたことにキングヘイローが責任を感じる必要なんて勿論無いのだが、プライドが高く何事にも真面目に取り組む気質を持つ彼女にとっては無関係というだけで話を終わらせられなかった。
「ウララさん! ご無事ですか!?」
自分の部屋に辿り着き、扉を勢いよく開ければそこには。
「あっ! キングちゃん!」
キングヘイローの姿を見て嬉しそうな満面の笑みを浮かべるベッドの上で横たわる元気なハルウララの姿と。
「あっ、どうもお邪魔してます」
そのベッドの傍らに腰掛け、軽く手を挙げるアメリカ最強ウマ娘のセクレタリアトの姿があった。
「…………は?」
ハルウララはともかくとして、あの全米で有名なセクレタリアトがどうして自分の部屋に居るのか全く理解することが出来なかったキングヘイローは、現実を受け入れるまで暫くの間フリーズするしかなかった。
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