12,目標
ウィナーズ・サークルにて渾身のドロップキックをお見舞いされてマックイーンと観客が絶句というホープフルステークスでの記憶がよみがえる一幕があったが、省略。
メイクデビューではさらっと逃亡、ホープフルステークスでは「アタシは究極のぬれせんべいを作るんだ! ここから一歩も動かねーっ!」と駄々をこねて勝利者インタビューをしなかったが、今回ばかりは受けないと学園側から怒られる。
勝負服についた泥を落とし、ゴールドシップを引きずっていく。やる気がないわけではないようなので、多分おもしろいから引きずられとくかと思ってるだけだろう。
なんとかインタビュー台に乗せると、記者たちが一気に写真を撮り始める。ウマ娘はフラッシュに敏感なため、音だけが鳴り響く。
「ゴールドシップさん、皐月賞を1着で制しましたが、感想はいかがですか?」
インタビュアーにマイクを向けられると、腕を組みながら神妙な顔で頷く。
「やってやったぜ……卯月の仇はとったからな」
「……卯月?」
おっしゃっていることの意味が……と混乱するインタビュアーに、次の質問を、と促す。
ゴールドシップにまともな応対を期待してはいけない。この娘のペースに巻きこまれないようにしつつ、楽しませるようにするのがベストなのだから。
「前回のホープフルステークスもそうでしたが、今回の勝ちも劇的でしたね。作戦だったのでしょうか?」
「ああ。あれはゴルシ星4,000年の歴史の中でもとびっきりのやべーヤツだったぜ。おかげで面白かったけどな!」
事前に用意した作戦です、と困惑するみんなに伝える。
ここでようやく話が通じないのでは……? という空気を感じ取ったのか、インタビュアーは俺のほうを見始めた。
うん、と頷くと、苦笑いしながら質問を続ける。
「今回バ場が稍重で、内側は荒れていたようですが。それも考えていたのですか?」
「ヤオモモって婆さんに教えてもらったんだ……ターフには魔物が住んでるってな」
レース前にも確認しましたが、ゴールドシップならやれると思いました。そう言うと、おぉ、記者から声が漏れる。
そこで、最前列で聞いていた女性記者がキラキラした目をしながら手を上げた。
「月刊トゥインクルの乙名史です!」
「あ、あの、まだ質問の時間では……」
「ぜひお聞きしたいのです! ゴールドシップさんは今回何故勝てたのでしょうか! やはり練習に秘訣が?」
興奮して聞いてきたのは乙名史さんという記者だ。以前学園にも来ていたような気がする。理事長と何やら相談していたような。
ともあれ質問に答えなければ。ゴールドシップに目線を向けると、んべっと舌を出してこちらを見た。答える気がないらしい……。
やってくれると信じていたら勝ってくれました。お互い信頼してレースに臨んだ結果だと思います。
月並みな返答をすると、急に真顔になる乙名史さん。何かまずかったか……?
「す……」
「ん?」
「すばらしいです!!!」
「おぉ! どうした、びっくりお陀仏曼荼羅か?」
急に興奮しながらガリガリガリと手帳に書きこみ始めた。
「互いの信頼! それはすなわち、走りたいと思えば山へも海へも向かい! 自分の身を粉にして走り回る覚悟! 感服しましたぁ!」
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