ハーメルン
走るその先に、見える世界
2.渾身の傑作



 基礎トレーニング。それはウマ娘なら誰もが通る道である。
 速く走る為にウマ娘は自身を鍛える。しかし人の気持ちとは揺らぐものだ。長い時間を掛けていくにつれて、誰もが基礎を疎かにしてしまうものである。
 そしていつの日か基礎を飛ばして、速く走ろうとする者は無理に応用へ行こうとする。
 必ず強いウマ娘になる為の正解などはないだろう。しかし必ずと言って良いほど、強いウマ娘は似たような道を辿っている。
 
 レースで誰よりも速くゴールする為には、なにが必要か?

 無尽蔵な体力、強靭な筋力、身体の動かし方、もしくは競争相手との読み合いの巧さか?
 答えは簡単である。それは“全て”だろう。
 レースで誰よりも速く走る為には、誰よりも強ければ良い。
 競争相手よりスタミナがあり、誰よりも加速できる筋肉を持ち、誰が見ても綺麗だと言えるフォームで走り、そして駆け引きが上手い人が勝つ。それがレースの本質である。
 ウマ娘が願っている行き着く理想は、誰もが同じである。しかしその過程である“道”は、誰もが違う道を進む。
 その過程――つまりは努力が結果を生む。誰よりも鍛錬を重ねた者だけが、ただ一人だけの勝利を掴み取る。

 努力を怠るウマ娘に、勝利などはない。

 それは強者であるウマ娘ならば、心の底から確信していることであった。


「もうワンセット、行くぞ」
「――はいっ!」


 麻真の声と共に、メジロマックイーンが大きな声で返事をする。
 麻真が落とさないように支えているバーベルをメジロマックイーンが首後ろと両手で支え、ゆっくりと膝を落とす。
 そして膝を落としてから、今度はゆっくりと立ち上がる。これをひたすらに繰り返す。所謂、スクワットだった。
 通常のスクワットならば、メジロマックイーンも苦もなく回数をこなせる。しかしバーベルという重りを持っている以上は足への負荷が更に掛かっている所為で、回数を重ねるに連れて彼女の顔は険しくなっていた。


「ぬっ……! ぐっ……!」


 そして十回をワンセットとして、メジロマックイーンは六回の時点で膝が上がらなくなっていた。
 本来ならここでメジロマックイーンはバーベルを落として身体を休めるだろう。
 しかし麻真はそれをさせずに、メジロマックイーンが持つバーベルを支えたまま彼女に告げた。


「持ち上がるぞ。ほら、頑張ってみろ」
「こんのっ……‼︎」


 メジロマックイーンが必死に力を込めるが、膝が持ち上がらない。
 そこで麻真は支えていたバーベルをメジロマックイーンが分からない程度に僅かに持ち上げると、彼女は無事に膝を上げられていた。


「はぁ……! はぁ……!」
「はい。あと四回」
「……はいっ!」


 麻真に促されて、メジロマックイーンが膝をゆっくりと落とす。
 また落とした膝が上がらなくてメジロマックイーンの身体が震えるが、麻真は先程と同様にバーベルを僅かに持ち上げて、彼女にスクワットをさせていた。
 そして目標の十回を終えると、バーベルを下ろしたメジロマックイーンはその場に倒れていた。


「二セット目終わり。インターバル入れてから次は三セット目だからな」


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