1.走ってこい
あの北野麻真が、トレセン学園に帰ってきた。
それは麻真の過去をよく知らないメジロマックイーンには分からないことだったが、トレセン学園では大騒動になるほどの出来事だったらしい。
まずは高等部の方で色々と騒動があったと噂で聞いた。また在籍するトレーナー達も麻真が帰ってきたことに賛否両論と分かれた反応があるらしい。トレーナー達の噂についてはメジロマックイーンは微塵も興味はなかったが、高等部の噂については少し気になった。一体、麻真についてどんな話があったのだろうと。
そんなトレセン学園で有名だったらしい北野麻真がメジロマックイーンの専属トレーナーになったことは、それが必然と言えるように彼がトレセン学園に帰ってきた当日で高等部の生徒全員へ話が広まっていた。
そして麻真がトレセン学園に帰ってきた日から、メジロマックイーンは高等部の生徒から話し掛けられることが多くなった。大体の内容はどうやって行方不明の北野麻真を専属トレーナーにしたかや、自分も彼に指導してほしいから専属トレーナーを譲ってくれという内容だ。
また他のトレーナーからも、麻真から自分に乗り換えないかと直談判が来ていた。何故か知らないが、たまたまその時に近くにいたたづなから聞いた話だと、麻真が目をつけたウマ娘というところがポイントらしい。それについては、メジロマックイーンは実にどうでも良かった。
無論、メジロマックイーンは即答で全て断りたかった。麻真との大事な練習時間を減らされるなど彼女には到底許さないことだ。自分も麻真に鍛えてほしいと頼み込んでいて、幸運にも彼が自分の専属トレーナーとして登録されたのだ。それを簡単に他の人に譲るなど有り得ない話だ。
しかしこの件は高等部の生徒にとってはかなり大事らしい。彼女達への答え方を間違えると間違いなく角が立つ。あまり学園内で不必要な揉め事を起こすのは控えたかったメジロマックイーンは、慎重に答え方を選んでいた。
メジロマックイーンのところに来た高等部の生徒には、穏やかに麻真が自分の専属トレーナーになったことを学園から一方的に告げられたと答えた。そしてトレーナー達には、麻真で満足しているから問題ないと正直に答えることにした。
そして麻真がトレセン学園に来て一日経った翌日も、朝から放課後までメジロマックイーンのところに来る上級生から麻真を譲ってほしいという話を適当に躱しながら、彼女は放課後から約束していた麻真との練習を練習場で始めていた。
「まだ他の奴から色々言われるのか? 全く……今日、俺のところに来たやつ全員には言ったんだがな。俺は他の奴を見るつもりはないって」
練習前に麻真とメジロマックイーンが揃って柔軟をする。柔軟をしている最中にメジロマックイーンが“そのこと”を麻真に世間話のように話すと、彼は聞くなり深い溜息を吐いていた。
麻真がトレセン学園に来てメジロマックイーンのトレーナーになっても、彼は変わらなかった。相変わらず髪は長いままで適当に一つに結っている。普段の格好も他のトレーナーのようにスーツなどを着ているわけではなく、運動し易いジャージ姿だ。
それが悪いとはメジロマックイーンは思わない。スーツなんて着られたら麻真と一緒に練習できないので、その点はメジロマックイーンも納得しているが――彼女も少しずつ理解してきていた。
多分、この人は普通のトレーナーではないと。ウマ娘と同等の速さで走れるのも勿論だが、そもそも普通のトレーナーは一緒に同じメニューの練習をすると言わないし、一緒に練習場のコースを走ることもない。と言っても、それもメジロマックイーンは了承しているし、むしろ一緒にしてくれない方が困る。
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