ハーメルン
特級呪霊 阿部高和
五条悟の苦悩


酷い悪夢を見て五条悟は目を覚ました。



約10年近く前の星奬体の護衛任務の夢。


護衛対象は守れたものの、呪術高専はほぼ壊滅。


親友であった夏油傑は術式を失い、最強は片翼を失った。


自分があの時、生きていたのは護衛対象の二人と、数少ない女友達とも言える家入硝子、そして、普段はからかっていた庵歌姫がその身を挺して守ってくれたからであり、完全敗北だった。


女4人に尻を庇われながらの逃走。


助けることができなかった親友。


失われた多くの呪術高専の関係者の術式。


最強と信じていた自分の力の完全敗北。


あの日から鍛え続けていた。自分が遥かに強くなったという自覚もあるし、力の扱いも旨くなった。


あの時、一緒に逃げ出した伏黒 甚爾との鍛錬で体術も強くなった。


己の領域展開も手に入れた。


でも、それだけだ。


特級呪霊 阿部高和を討伐できるかと言えば、できない。



『五条悟では、特級呪霊 阿部高和を討伐することができない。』



その事実だけが重たく圧し掛かっていた。


親友の力を奪われた。いつか取り戻してやると約束しておいて、その目途すら立っていない。


結果、本来、自分と同じ最強であるはずの親友は補助監督に留まっている。


ある村で監禁されていた双子を助けた。その時、親友は泣きそうな顔をしていた。


「なあ、悟。本当はこの世界が許せないんだ。でも、もう私には精々見ることぐらいしかできないんだ」


その時の親友の顔が脳裏から張り付いて離れない。

顔を洗う。

己の碧眼が目に入る。

六眼と無下限呪術という破格の能力を生まれ持った。

しかし、救いたいものは何も救えておらず、ただ、失っていくだけ。

仲間を増やそうと思い、高専の教師になったものの、まだ、結果は芳しくない。

忌み嫌う上層部を変えるにも

親友が奪われたものを取り戻すのも

「最強」そう称しても、何も残らない

鍛える、鍛える、鍛える、数を繰り返すしかない

鍛える

鍛える

五条悟は飢えていた。

更なる強さに飢えていた。

まだ、届かない。でも、伸びしろはまだ残っているなら、続けるしかない。

領域展開のその先に、鍛えて、鍛えて、鍛えて、至るしかない。

五条悟は最強に至れる人間だ。

でも、まだ、至れていない。

まだ、先がある。

単独の特級呪霊 阿部高和撃破。

それこそが最強の証明。

まだ、足りない。まだ、足りない。まだ、弱い。まだ、全然足りない。

今日も報告が入る。

どこぞの呪術士が阿部に掘られた。

相手はもっと強くなっている。

なら、その倍以上のペースで強くならなくてはならない。

今日も五条悟は鍛える。



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