15 - 陰の太陽2
白装束に身を固めた一団が訪れた日、絵画世界の空気はピリピリと張り詰めていた。
「お母さん」感じたことのない雰囲気に不安をおぼえ、少女がベルカにしがみつく。
「大丈夫。悪い人じゃないから」ベルカは頭をなでて落ち着かせた。「みんなも武器をしまって」
「ベルカ様。王は新たなお子様の誕生をご存知でございます」絵画守りの一人が言った。
「そりゃあ、あんだけ騒げば外にも知れるだろうね」
「王はその子を世継ぎにしたいと仰せです。よろしいですね?」
「残念だけど孫は女の子なんだ」
「それでも構わぬと」
「え?」
「血を継いだ者であれば構わぬと」
プリシラが心配そうにベルカを見た。ベルカは娘が竜の子であると悟られぬよう表情を崩さない。
「それではお子様を差し出していただけますね?」
「一日待ってほしい」
「わたくし達は連れて帰らねばみな殺されます。穏便に済めばよし、抗うなら一戦まじえ、ここで散る覚悟でございます」
「孫も巻き添えになって死ぬかもしれないよ」
「連れ帰れなければいずれにせよわたくし達は全滅。違いますか?」
ここまで強気で来るとはベルカも想像していなかった。かちりと歯をかみしめる。
「連れ帰るって、そもそもここに出口があるって誰から聞いたの?」
「…」
「キアランは元気?」
「…」
ベルカは天を仰ぎ、大きくため息をついてから言った。「みんなで明日帰ろう。すぐは無理。荷造りがあるから。それでいい?」
「それはお子様を差し出していただける、と取ってよろしいのですね?」
「どっちにしたってあんたらが生き残る方法って私が孫を送り出すことしかないんだからさ、少なくとも寿命が一日延びると思えばいいじゃん。違う?」
「…わかりました。いいでしょう」
住民全員が見守るなか、緊迫した交渉は血を流さずに終わった。
* * *
「おばあさま。私、王を継いでもかまいません」
プリシラの子は澄んだ顔で言った。「そうすれば皆が無事に過ごせるのでしょう?」
「どおー」プリシラがたまらず抱きしめた。「なんて心優しい子なんでしょう。ママとは大違い」
「誰がじゃ。…でも、ちょっと私の思うことを二人に言っておきたい」
プリシラと子は座り直した。
「シロタコちゃん、天才すぎるからこんなとこにいちゃだめだと思う」
「ママ」
「外の世界はシロタコちゃんが一生かかっても知りつくせないような知識にあふれてる。こんなところ、って言っちゃいけないけど、ここにいたらもったいないと思う」
悲しそうな表情をするプリシラ。ベルカは続ける。
「前から思ってたんだ。シロタコちゃん、外に出るべきなんじゃないかってさ。そうしたらちょうどいいところにあの野郎の手下が来たもんだから、これは誘いに乗るべきなんじゃないかって」
「私はイヤです」
「子を思う母なら、成長できるところへ送り出してやるべきだと思う。あなたは、私のせいで出られないけど、でもシロタコちゃんは天才だから」
「はぁ…」
再びプリシラは子を抱きしめた。「お母様…」子もそれに応え、胸に顔をうずめた。
翌日、住民に見送られ、絵画守りの一団とベルカは、プリシラの子を連れて外へ出た。
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