19 - 罪人録1
「グウィンドリン様の祖母を名乗るなら、腋のにおいを嗅がせろ」
「ワキ!?」
アノール・ロンドに作られたグウィンの霊廟。壁には剣を構え直立するグウィンの肖像が掘られている。その前にベルカと案内役の絵画守り、向かい合って立つのが真鍮の鎧に身を固めた女騎士だった。
「やだよ、なに?アノール・ロンドって何でこんなヘンタイしかいないの?」
グウィンが世界をつなぐために旅立ち、残されたグウィンドリンがとにかく困っている、というので、絵画の外へ出られないプリシラの代わりにベルカが訪れたのだが…
『ベルカ様、そちらではありません』
『え?謁見の間じゃないの?』
『グウィンドリン様は王の霊廟にいらっしゃいます』
『なんで?喪に服してるとか?』
『さあ、真意は測りかねますが…』
大王の霊廟は謁見の間からはるか下にひっそりと佇んでいた。墓があるかと思いきやそこは行き止まりで、さらに出くわしたのが変態女騎士である。
「この先は王の霊廟である。いやしくもグウィンドリン様の祖母を名乗るなら、大人しく腋のにおいを嗅がせるのだ」
「前半と後半が絶対かみ合ってない。なんでワキなの?」
「では理由を教えてやろう。こちらに弱点をさらし敵意がないと証明するためだ」
「そんでドリンちゃんの匂いフェチなんでしょ?」
「そのとおりだいやいやいやそれは違う。さあ。後ろめたいことがないなら、さあ!」
「う、うえー…」
無機質な兜から想像できない迫力に気圧され、おずおずとベルカが腕を上げる。すると騎士はスタスタと歩み寄り、鼻を近づけた。
「すん…」
「…」
「すんすんすんすんすん」
「ぎやー」
あまりの気色悪さにベルカが飛びのく。意識が飛んだかのように棒立ちの騎士。笑いをこらえきれず身体を震わせる絵画守り。
「グウィンドリン様…はっ」
顔を振り、キリッと姿勢を戻した騎士。
「間違いない。貴公はグウィンドリン様の血を持つ者である。今までの非礼をお許しいただきたい」
そうお辞儀すると、グウィンの彫像に触れた。壁が煙のように消え、長い道が続いている。案内を終えた絵画守りは帰り、女騎士に先導されるかたちでベルカは進んだ。
「ベルカ様は王のお妃であったとか」
「離婚してないから未亡人だよ」
「ゾクゾクしますね」
「帰りたい…」
「失礼いたしました。そこでひとつお聞きしたいのですが」
「変な質問はお断りだよ」
「なぜ王はグウィンドリン様のにおいがしないのです?」
鋭い。ベルカは思わずこけそうになった。
「光の抗菌作用でにおいがしなかったんじゃない」
「それはありません。私はグウィンドリン様の前は姉のグウィネヴィア様にお仕えしていたのですが、グウィネヴィア様は王と同じにおいでしたよ」
「ドリンちゃん、ふつうの神とは違うからなあ」
「ベルカ様もわかりますか!?」
騎士が興奮の声とともに立ち止まる。
「ですよね!?グウィンドリン様、美しすぎますよね!?」
「うーん…神って結構ゴツいよね、みんな」
「うんうん!」
ベルカの両手を強く握る騎士。同志よ。そんな思いを込めて。
「それでいていつも儚げな雰囲気がまた色気を誘って…はぁ〜幸せ…」
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